それでも、成功して得られる価値はとてつもなく大きいと思えた。電気自動車という(当時は)夢物語のような概念を実現することは、現代社会が化石燃料依存から脱却するための大きな一歩になる。
画像:『マッピング思考』
マスクは、たとえ失敗したとしてもテスラは価値あることを少なくとも1つ成し遂げられる、と考えた。
「“電気自動車はゴルフカートのように格好悪くて、遅くて、退屈なものだ”という人々の誤った認識を変えられると思ったのです」と語っている。
マスクがスペースXを立ち上げた理由もこれに似ている。
マスクはテスラのときと同じようにスペースXが成功する確率を1割、失敗する確率を9割と見込んでいた。だが、成功したときに得られる価値は計りしれない。
安く宇宙飛行ができる手段を開発すれば将来的に人類が移り住めるようになるかもしれないし、地球上で起こり得る壊滅的なリスクから人類を守れるかもしれない。
また、仮にスペースXが失敗したとしても、宇宙飛行技術を少しでも進歩させられるのなら、それはまったくの無駄にはならないはずだ。
「わずかであれボールを前に動かせるのなら、たとえ僕たちの会社が倒産したとしてもどこかの会社がバトンタッチしてそのボールをさらに前に運んでくれるかもしれない。だとすればなおさら挑戦する価値はある。」
「就職、起業、投資、人間関係 あらゆることに応用可能」
全体としてみれば、テスラもスペースXも、失敗する可能性は高かったものの、マスクにとってはいい賭けだったようだ。
期待値は、その賭けを何度もくり返すことを想像することによってもとらえやすくなる。そのとき、成功によって得られる価値は、失敗によって失う価値を上回るだろうか?
イーロン・マスクのようなスケールの大きな起業家なら、一生のうちにテスラやスペースXのような会社を10社はつくる時間と財力があるだろう。
もしその10社のうち9社が失敗するのだとすれば、最大の問題「1回の大きな成功と引き換えに、9回失敗する価値はあるか?」ということになる。
現実的には、まったく同じ賭けを何度もくり返すことはめったにない。それでも、人生にさまざまな賭けをする機会があるのはたしかだ。
就職や企業、投資はもちろん、他人を信頼する、難しい頼みごとをする、安全地帯から抜け出してなにかに挑戦する、といったことまで含めれば、賭けの機会は無数にある。
そのなかで、期待値を正しく見極めて賭けをすればするほど、ここの賭けに失敗したとしても、全体としては利益が得られるという確信が持てるようになる。
覚悟のうえで、運命に任す
「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなると見なす。
そして「絶対に失敗しない」と固く信じることが、最大限の努力をして成功を目指す秘訣だと考える。
だが現実には、それとは逆であることが多い。
『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社)ジュリア・ガレフ 著, 児島修 訳
つまり、事前に失敗の可能性を受け入れるからこそ、さまざまな縛りから解放されて、目標に向かって邁進できるようになるのだ。
「失敗する可能性だってある」とわかっているからこそ、臆病ではなく大胆になれる。必要なリスクを取る理由が得られる。
マスクは「他人がクレイジーだと思うような会社を恐れずに起業した」と称賛されると、「実は、強い恐怖を感じている」と答えている。
恐怖を感じていないのではなく、失敗の確率とうまく折り合いをつけることで、その恐怖を手なずける術を学んだだけだ、と。
「それが運命だと思えば、気が楽になります。」失敗の確率を納得して受け入れれば、恐怖心は薄れます。スペースXを立ち上げたときも、成功率は1割以下だと思っていました。当然、すべてを失うかもしれないと覚悟のうえで。







