ファーウェイの特許攻勢は恐るるに足らず!カギを握る「サムスン対アップル」訴訟の判決とは?Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 過去の中国とのビジネスにおいては、日本企業の特許を侵害されることが中国の知財リスクであった。しかし現在、中国企業が押さえる標準規格の特許を日本企業が使用し、ライセンス料を請求される事象が起きている。この新たな中国の知財リスクへの対処方法として「サムスン対アップル知財高裁大合議判決」を参考にしながら示す。加えて、経済安全保障を回避して、中国最先端技術の果実を取得するビジネスモデルの在り方も展望したい。

ファーウェイが持つ「標準必須特許」

 今年3月以降、日本企業に対して中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が、「SEP特許」を用いて攻勢をかけているという記事が新聞各紙を賑わしている。ファーウェイは、米国の経済安全保障で経営が厳しくなり、新たな収入源として知財ビジネスを展開中だ。

 SEP特許とは、Standard Essential Patentの頭文字を取った略称であり、「標準必須特許」を意味する。スマートフォン等の情報通信機器やブルーレイディスクなどの記憶メディア機器において重要となっているものだ。例えば、A社のスマートフォンとG社のスマートフォンが通信する場合、それぞれの会社が異なる技術仕様を採用していると互換性に支障が生じ、正常に電話やメールができない状況が生じる恐れがある。そこで、古くからこのような互換性が問題となる技術分野では、技術仕様に関して標準規格を定めて、各社に共通の技術仕様の製品を作る仕組みが採用されている。その標準規格に必須な特許権をSEP特許という。

FRAND宣言で誰でも特許が利用可能に

 SEP特許は、標準規格に必須の特許権であるため、各社が標準規格に準拠した製品を生産する以上、原則としてこれを使用せざるを得ない。仮に通常の特許権と同じく、特許権者(今回ではファーウェイ側)にSEP特許の権利行使を自由に認めると、標準規格に準拠して利用する側は特許権侵害を主張される可能性がある。特許権者から巨額の損害賠償や差し止め請求をされ、生産中止に追い込まれるリスクがあるため、標準規格に準拠することに躊躇してしまうことが起こり得る。その結果、標準規格の普及が阻害されてしまうだろう。

 他方で、SEP特許だからといって特許権行使が一切許されないとなると、標準規格が普及した後にフリーライド的に参入した会社が標準規格の恩恵を享受できてしまう。そうすると、技術開発に巨額の資金を投じSEP特許を取得した会社は、投下した資本を回収できなくなってしまう。結果として、どの会社も標準規格に関して積極的な技術開発を行わなくなってしまう危険性が生じる。

 そこで、標準規格を管理している団体の多くは、SEP特許を保有している特許権者と利用者のバランスを取るために、「IPポリシー」という当該団体が定めたルールにおいて、特許権者に「FRAND宣言」を求める仕組みを導入している。

 FRAND宣言とは、SEP特許を有するすべての特許権者は、標準規格を利用したいと望むすべての者に、「公正」(Fair)、「妥当」(Rational)、「無差別的」(Non-Discriminatory)な条件でライセンスを付与することを約束させることをいう。これにより、標準規格に準拠して利用したい者は、誰でも合理的なロイヤリティーを支払えば利用できるとともに、SEP特許の特許権者は、標準規格を利用する者からロイヤリティーを取得することができる。