「言いたいことがあるのに、言葉がパッと出てこない」「話してるうちに、何が言いたいか見失う」
言語化に関するあらゆる悩みを、著書累計180万部を超える言語化のプロが一気に解決する1冊、『すごい言語化 「伝わる言葉」が一瞬でみつかる方法』が発売された。著者は、言語化コンサルタントであり、自身も60冊以上のビジネス書を出版してきた作家・木暮太一氏。企業経営者向けのビジネス言語化、出版コンテンツの言語化コンサルティング実績は毎月100件以上、累計で1万件を超えるという木暮氏は、まさに「言語化のプロ」。「言語化にセンスはいらない。考え方とフォーマットを身につけさえすれば、誰でも自分の頭の中を言語化させることができる」と、木暮氏は断言する。今回は、そんな本書より一部を抜粋・編集して、「指示通りに動かない部下の対処法」について解説していく。(構成:川代紗生)

すごい言語化Photo: Adobe Stock

「先回りして行動しろ」何度言われても改善できない理由

 新入社員の頃、よく「先回りして行動しろ」と上司に怒られていた。

 気が利かないタイプだったので、上司からすれば、細かいことをいちいち指示しないと動いてくれない、とにかく手がかかる部下だっただろうと思う。

 どれだけ言っても上司の言う「先回りして行動する」ができるようにならなかった筆者に、ついに上司は耐えられなくなったのか、一対一で話す面談の時間を設けて、こう言った。

「ずっと指示を待ってるばかりじゃ、いつまでたっても一人前にはなれないよ。『これやっといて』って指示されたときには、『あ、それ、言われると思ったので終わらせておきました』って言えるくらいにならないと」

 なるほど、上司の言うことは至極もっともで、そのとおりだなと思った。

 わざわざ指導してくれた上司に感謝し、さあ明日からがんばろうと気合いを入れ直したところ、ここでふとした疑問が浮かんだ。

「先回りして行動する」って、具体的には、どうすればいいのだろう?

 どんな行動をとれば、上司の「これやってもらったら助かる」を察知できるようになるのだろうか?

「いい感じにして」は指示ではない

 指示通りにやっているはずなのに、上司が不満そう。

 逆に、ちゃんと指示は出しているはずなのに、部下が自分で考えて行動してくれない。

 言語化コンサルタントであり、出版社の経営者としても活躍している木暮太一氏は、長年の経験から、こういった職場の問題の多くは、「言語化」がうまくいっていないから起こってしまうのだと気がついたそうだ。

 たとえば、イベントの広告を打つと決まったとしよう。「いい感じのポスターにまとめて」と上司に指示された。

 ところが、実際に取り掛かってみると、上司の言う「いい感じのポスター」とはどういうことなのか、イメージできない。インパクトのある写真を使ってほしいということなのか、レイアウトにこだわれということなのか、情報をたくさん盛り込めということなのか。

 すぐに上司に質問すればいいのだろうが、怖くて聞きづらいという人も多いだろう。実際、筆者もそうだった。

 それに、部下を成長させようとして、あえてそういう曖昧な言い方をしているのではないかと、思ってしまうこともあった。全部こと細かに説明しても、自分で考える力が身につかない。

 だから、「いい感じの」という、抽象的な指示にしているのだ、と。

 ところが、『すごい言語化』には、こんなエピソードが書かれていた。木暮氏自身もサラリーマン時代、曖昧な指示をされたことがあるという。

結局このときは上司本人も「いい感じ」とはどういうことなのか、自分でわかっていないませんでした。つまり「俺もよくわからないし、どう説明していいかわからないけど、とにかくクライアントが契約してくれるような資料を作れ」と言っていただけなのです。(P.38)

 さらに、木暮氏は、「言語化」ができないことによる弊害について、こうも語る。

ただ、ここに問題があります。上司に「いい感じの資料にしておいて」と言われると、言葉で伝えられたので「指示を受けた」と認識しがちです。しかしこの日本語では言語化したことになりません。上司の頭の中が伝わってきていないからです。
ほとんどの人はそのまま「よし、いい感じの資料にしよう」と考えてしまいます。でも、そもそもいい感じがどういう状態かがわからないので、行動が止まってしまいます。(P.38-39)

「行動を止める指示」と「行動をうながす指示」決定的な差は?

 本書によれば、具体的なアドバイスをしているつもりでも、相手がすぐに行動にうつせるような言い方をできていないという場面が、多々あるそうだ。

 多くの「指示」が、「ゴール」や「スローガン」を提示するだけになってしまっているという。

「顧客の意図を汲んで、先回りして行動したほうがいいよ」
「そのために、今度顧客の課題をヒアリングして、ニーズをキャッチしな」

 こういった、一見有益に見える言葉も、実は、行動をうながすアドバイスにはなっていないのだそうだ。

「あなたはいずれこれができるようになってください」という「あるべき姿」、つまりゴールを示しているだけで、どうすればそれができるようになるかを伝えられていない。にもかかわらず、「あるべき姿」を示されると、なんとなく指示を受けたような気持ちにさせられる。

 結果的に、部下は「あんなにいろいろ教えてもらったのに、自分はそのとおりにできない、ダメなやつだ」と落ち込んでしまう……ということも多々あるだろう。

厳しすぎず、優しすぎず…
デキる管理職に共通する「伝え方」

 このような「伝えたつもりで、伝えていない」という問題は、どうすれば解決できるのか。

 そこで、木暮氏は、「練習メニュー」という表現を使うといい、と教えてくれている。

 さきほどの例でいえば、「顧客の意図を汲んで、先回りして行動したほうがいいよ」ではなく、「顧客の意図を汲んで、先回りして行動するために、練習として毎日〇〇をしよう」と伝える。

伝えたつもりになっても、自分が意図した行動を相手がしていなかったら意味がありません。練習メニューを提示するという視点で、相手にしてもらいたいことを表現してみてください。あなたの意図が驚くほど言語化でき、相手の行動が驚くほど変わっていきます。(P.174)

 この「練習メニュー」を提示する、という戦略は、自分自身に対しても応用することができる。

 達成したい目標や「こうなりたい」という姿があったとき、どんな練習をすれば、それに近づけるだろう? と考えてみるのだ。

 たとえば、「先回りして行動しろ」とさんざん注意されていた筆者の場合は、

「先回りして行動するために、練習として、毎日、『上司に頼まれそうなこと』をリストアップしてみよう」
「先回りして行動するために、練習として、毎日、始業前に、上司のスケジュールをチェックする時間をつくろう」

 と、このように「練習メニュー」をつくってみたらよかったのかもしれない。

 仕事に慣れない若手社員のうちは、何から手をつけていいかわからず、不安なものだ。

 そんなとき、「練習としてこれをやろう」という言葉は、日々のタスクをこなす上で、支えになってくれるはずだ。

『すごい言語化』には、思考をパッとクリアにする言語化の技術が、ぎっしりと詰め込まれている。言語化スキルの低さに悩まされている人に、ぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。