雇用への影響については、最低賃金引き上げが雇用を減らすという研究結果がある。津田塾大学の森悠子准教授と筆者が22年に発表した論文では、最低賃金が10%上がると19~24歳の高卒以下の学歴の男性就業率が7.8ポイント下落することが明らかになった。
現在予定されているのは、961円から1002円への4.3%の賃上げなので、この研究結果に従うと就業率は3.4ポイント下がる。20年の国勢調査によると20~24歳の中卒と高卒男性の合計は95.6万人である。そのため、今度の最低賃金引き上げではおよそ3.3万人の雇用が失われると予想される。
最低賃金は近年の連続的な引き上げの中で市場賃金に接近している。厚生労働省「最低賃金に関する基礎調査」によれば、22年現在で19.1%の労働者が最低賃金引き上げの影響を直接受けた。
次の政策目標設定に当たっては、賃金、雇用、労働移動への影響を多角的に評価する必要があるが、そのためには高精度のデータ整備が欠かせない。先進諸外国では軒並み年金や雇用保険の業務データから労働者の雇用環境の変化を捉えるデータが作成され、研究者が分析できる環境が整備されているが、日本ではまだだ。早急に解決すべき課題である。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)