ビジネスの本質に立ち戻るためのデザイン思考

 セッション後半は、会場およびオンラインの参加者からの質疑応答に充てられた。特に目立ったのは、組織が成長するにつれて顕在化しがちな「経営vs現場」「既存事業vs新規事業」「開発vs営業」といった対立構造を乗り越え、いかに全社にデザインを浸透させていくか──という具体的な方法論に関する質問だ。

デザイン力を組織力に転換する、クリエイティブな企業カルチャー

 こうした問いに対して金井氏からは「一つのビジョンで全体をくるむ」という観点からさまざまな具体策が提示された。「どんな組織でも対立はありますが、ユーザーにいいものを届けたいという思いは同じはず。会社の究極の目標はミッション達成で、事業やサービスはその手段ですから、そこでいがみ合ってもしょうがない。全体を俯瞰する視点を誰もが持ち、常にミッションに立ち返ることができる仕組みをデザインすることを意識しています」(金井氏)。

 一方、古結氏は「仕組み化まではできていない」としながらも、「開発部門やビジネス部門のエンジニアやマーケターも一緒に、チーム全員でユーザーに会いに行くことを大切にしています」と話す。「インタビューでは本音が聞けないこともあるので、特に重要視しているのは実際の利用シーンの観察です。デザイナーだけでなく、多様なメンバーで観察すると、ユーザーに対する勝手な思い込みが覆されて、本当に多くの気付きが得られます」(古結氏)。

 最後に田川欣哉氏は、「金井さんのお話から、全社に共通する判断基準や目標を示し続けることの大切さを再認識しました。MVVCを『北極星』とし、皆で遠くを見ることで組織がクリエイティブになっていく。また、古結さんの『ユーザーにみんなで会いに行く』という方法は、シンプルですが、ユーザー理解とプロトタイピングというデザイン思考の2本柱の実践です。デザインを経営資源として使うとはどういうことか、その答えを頂いた気がします」とディスカッションを総括した。

デザイン力を組織力に転換する、クリエイティブな企業カルチャー田川欣哉氏

 デザイン力を組織力に転換しようと奮闘しているデザイナーにとって、次なる行動を起こすヒントに満ちた議論だったのではないだろうか。

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