世界にある言語の総数は

 世界地図を開いて人間の住んでいる陸地を眺めてみてください。一体、この広大な陸地では、現在どのくらいの種類の言語が話されているのでしょうか?

 アメリカのSILインターナショナルの刊行する『エスノローグ―世界の言語―』(Ethnologue -Languages of the World、第24版、2021年)のデータベースには、現在、世界に存在する言語として7139種類が登録されています。けれども、大まかに6000種類から7000種類と考えておくのが妥当な気がします。というのは、言語を数えるのは、ものすごく難しい。一つの「言語」とみなすのか、それとも「方言」とみなして言語数にはカウントしないのか、といった問題が起こることが多いからです。

 たとえば、『エスノローグ』の日本の項を見ます。すると、「日本語族」として、次の12種類の言語が数え上げられています。

 日本語、(1)北奄美語(きたあまみご)、(2)南奄美語、(3)喜界語(きかいご)、(4)徳之島語(とくのしまご)、(5)国頭語(くにがみご)、(6)沖永良部語(おきのえらぶご)、(7)中央沖縄語、(8)与論語(よろんご)、(9)宮古語、(10)八重山語、(11)与那国語(よなぐにご)。

 番号を付けた11種類の言葉まで、「日本語」にならぶ「日本語族」として数え立てられているのです。(1)から(11)の言語は、鹿児島県の島々と沖縄県の島々で話されている言葉です。(5)の国頭語は、沖縄本島の北部で話されている言葉です。(10)の八重山語は、西表島(いりおもてじま)や石垣島や波照間島(はてるまじま)などの八重山諸島で話されている言葉です。これらの言語の話されている場所を、図1に示しておきます。

 私たち日本人は、これら(1)から(11)の言語を、日本語とは違った別の「言語」と考えていますか?いませんよね。日本語の中の「方言(琉球方言)」ととらえています。でも、『エスノローグ』では、別の言語としてカウントしています。ですから、『エスノローグ』のデータベースにある7139種類という数は、「方言」も「言語」数にカウントされている可能性が高く、割引して考えておくほうが無難だと思えます。

 でも、一方では、ニューギニア島の内陸高地部、南アメリカのアマゾン地域、サハラ以南のアフリカなど、山岳地帯や道路のない地域では言語調査が行き届いておらず、そうした地域には、まだ数えられていない言語の存在する可能性があります。

 というわけで、『エスノローグ』に掲載されている言語総数から若干の差し引きを行なって、現在、世界にある言語は、6000種類から7000種類と考えておくといいというわけです。さらに、現在、少数の話者しかいない言語が、日夜消滅していっている現状を考えると、6000種類として話を進めるのが無難です。