不公平な相手を罰するときに得る快感は
中毒者がコカインを摂取するときと同じ

 悪意には「反支配的悪意」と「支配的悪意」の2種類あります。

 前者は平等主義によるもので、不公平に対する怒りから正義を振りかざすものです。非協力的な行動が罰につながることを認識させることで、社会全体が平等へ向かっていくという利点があります。先ほどの「最後通牒ゲーム」で、2ドルの提案を拒否した理由は、意地悪ではなく、公平な行動を求めて拒否したということになります。

 後者は人よりも優位でありたい、得したいという感情を持つ場合で、2ドルの提案を拒否することで、相手より優位に立ち、相手を支配するためです。競争を促し、科学的な発明やクリエーティビティーを生むことにつながるという利点があります。

 しかし不公平に対する怒りから相手を罰するとき、将来相手の行動を是正するために罰を与えると考えられがちですが、実際はそういう高貴な理由で罰するのではありません。

 最近の研究で、罰は不公平なやり方で自分たちよりも優位に立った人たちに報復するために与えていることがわかりました。罰によって公平性が推進されたことはあくまでも副産物なのです。

 正義中毒という言葉がありますが、実際人が不公正さを罰するとき、薬物中毒者がコカインを摂取するチャンスを与えられたときに示す脳内の反応と同じ反応を示します。罰するチャンスを見つけると、人は快感を得るのです。

チンパンジーは
人間のように意地悪ではない

 昆虫やバクテリアにも意地悪に見える行動がありますが、興味深いのは人間に一番近い動物であるチンパンジーには人間が持っているような悪意はないことです。

 人間は、他人が別の他人に対して不公平な行動をすると、罰したり意地悪をしたりします。チンパンジーは自分のバナナを奪うチンパンジーを襲うことはありますが、自分以外のチンパンジーが同じことをやられても罰することはありません。また、獲物を不公平に分配したチンパンジーに対して、自分が犠牲を払ってまで仕返しすることもありません。分け前がゼロでなければ、どのようなオファーでも受け入れますし、他のチンパンジーが働かずにバナナを手に入れられる場合でも、悪意から台無しにしようとすることもありません。

 なぜ人間は意地悪をするのか。その一つの説明は人間の脳、特に前頭前野皮質がチンパンジーよりも発達しているということです。