そこでまずTOOが「聞き役」に徹し、関係性を構築する。一般的なシニア社員だと、つい自分の経験から教訓めいたことを言ってダメ出しや叱咤激励をしがちだが、TOOにそれはご法度だ。相手に「つらい」と言われたら、「そうか、それはつらいね」と共感を示すのはOKだが「つらい仕事ほど成長につながるんだ、頑張れ」などと返してはならない。

 相談者のメンタル面が気になったら、それをTOOが自分で解決するのではなく、社内の診療所やキャリアサポート担当者らにつなげる。

 また、例えば中途入社組に支援が必要だと思っても、自分から本人に何かを伝えたり、上長に進言したりするのではなく、会社としてコーチング制度を提案するなど環境づくりに目を向ける。「おせっかい」と言いつつも、陰ながら適度にサポートするのがTOOの真骨頂といえよう。

 おそらくだが、経験豊富なTOOとの「対話」から、当事者や周囲の人たちが学べることは多いのだろう。皆がそうやって、優れた対話に触れることで、社内全体の相互コミュニケーション能力が向上していくと思われる。

良かれと思って言ったことが
本人のためにならないこともある

 著者の野村さんは、TOO活動を行っているサントリーHDの競合・キリンビールの取材も行っている。広域販売推進統括本部セールスサポート部の副部長(取材当時)、渡辺謙信さんが取材に応じ、自社のダイバーシティ活動を紹介している。

 渡辺さんは、コロナ禍で在宅勤務が広がる中で、「家族との時間は、ちゃんと取れていますか」「(仕事をする上で)家族の理解を得られていますか」「健康に投資をしていますか」といった言葉がけを部下にするようになったそうだ。代わりに禁句としたのが「頑張れ」だった。

 これは、渡辺さんが単に「優しい上司」になったということではないのだろう。部下がプライベートを含めてどんな問題や悩みを抱え、何に生きがい・働きがいを見いだしているのかを詮索にならない程度に探り、「自発的な成長」を促すようになったのだ。

 以下は本稿の筆者の感覚だが、単に「頑張れ」とだけ言うのには意味がなく、無責任にも感じる。「頑張れば何とかなる」と言われても、おそらく本人は頑張っている。ただ、どう頑張っていいかわからない、あるいは頑張ってもうまくいかないから悩んでいたりするのだ。たとえ、相手への思いやりから言ったとしても、だ。

 同様に、良かれと思って言ったことが本人のためにならないこともある。その一例が、女性の部下に対する「いいよ、俺がやるから」だ。本書では、その「禁句」を避けてマネジメントを成功させた企業の例も紹介している。