感染症統括庁は
新たな感染症に対応できる?

「スタートダッシュの遅れ」はワクチン関連だけではない。感染拡大の最初期は、医療体制(特に重症病床の確保)に関する議論が不十分だった印象だ。

 その結果、欧米と比べて病床数自体は多く、患者数は少ないのに、常に医療崩壊の危機に直面するという日本独特の問題に直面した(第264回)。

 確かに時間がたつにつれ、分科会でも医療体制の整備や病床確保について議論されるようになった。軽症者は病院ではなく自宅やホテルでの療養を推奨する形に変わった。知事の権限も強化され、22年12月には感染症法のさらなる改正が成立した。

 専門家とされる人たちは、自治体や病院の現場の声を聞きながら勉強を重ね、少しずつ医療体制を構築してきたのだと思われる。それ自体は評価できるが、やはり他の先進国と比べた「対応の遅さ」はどうしても気になった。

 このような新型コロナ対策の反省を踏まえて設立されたのが、冒頭で述べた統括庁だ。統括庁は今後、政府の感染症対策の政策立案や調整を一元的に担う。トップの「内閣感染症危機管理監」には栗生(くりゅう)俊一官房副長官が就いた。

 当初は38人の専従職員でスタートし、有事には100人規模まで増員できるという。有事の際の行動計画づくりや、訓練を担うのが職員たちの役割だ。筆者はこの専従職員のバックグラウンドを一人ずつ詳細に把握しているわけではないが、どのような専門性を持つ人材が採用されているかが重要だ。

 ポイントは「縦割り」の打破だ。かつて新型コロナ対策に関わっていたのは、厚労省・健康局結核感染症課の医系技官と、厚生科学審議会・感染症部会に招集される専門家だった(第265回)。官僚組織は、いわゆる「縦割り行政」の縛りが厳しいため、他の疾病を管轄する部署は、新型コロナ対策にはあまり関与していなかったと考えられる。

 これも当時、医療体制の整備が遅れた一因ではないだろうか。そこで統括庁では、幅広い専門性を持つ人材が採用されて「縦割り」が打破されるかが重要になる。

 この点について、統括庁の下の「新型インフルエンザ等対策推進会議」には、新たに15人が委員に任命された。要注目なのが、行政学などを専門とする早稲田大学政治経済学術院教授の稲継裕昭氏が委員に加わったことだ。

 筆者はこれまで、新型コロナの有識者会議に政治・行政学者が入らないことを批判してきた。感染症対策の最終的な意思決定は、政治によって下される。だからこそ、その専門家が必要だと考えてきたのだ(第270回)。その意味で、稲継教授が委員に入ったことは一定の評価ができる。