感染症統括庁が発足も“医療再崩壊”防ぐには、日本版「ナイチンゲール病院」実現をPhoto:JIJI

「内閣感染症危機管理統括庁」が9月1日に発足した。新型コロナ対策の反省を踏まえて、政府による感染症対策を一元的に担うという。だが筆者はこうした改革を経ても、日本における医療体制の問題が改善されるかは微妙だと考える。では医療再崩壊を防ぐに当たって、日本は今後どうすべきなのか。英国の事例を参考に、大胆な説を提案したい。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

日本における「専門家」は
臨機応変な対応が苦手だった?

 日本における今後の感染症対策を担う「内閣感染症危機管理統括庁」が9月1日に発足した。それに伴い、「新型インフルエンザ等対策推進会議」のメンバーも刷新。同会議の議長を務めてきた尾身茂氏は退任した。

 さらに、推進会議の下部組織に当たる「新型コロナウイルス感染症対策分科会」「基本的対処方針分科会」は廃止された。SNSなどには「尾身先生、お疲れ様でした」と尾身氏の労をねぎらう投稿も散見される。

 だが筆者はどちらかというと、尾身氏に批判的な立場である。

 というのも、2020年5月の分科会で、新型コロナ重症者病床増のために1兆円程度の財政資金を投入することが提起された際、尾身氏はその提案を退けてしまったという(※)。この例のように、疑問符が付く意思決定が散見されたためだ(本連載第277回)。

※木村盛世(2021)『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社)を参照。

 もちろん、それは尾身氏個人の問題だけではない。日本の審議会・諮問会議の制度そのものに問題があるといえる。

 審議会・諮問会議の委員である専門家の役割は、官僚が立案する政策案に「お墨付き」を与えることだ。故に、学会等の推薦で大きな業績を上げた重鎮の学者が起用されてきた。

 前述した分科会の前身に当たる審議会・諮問会議の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は20年2月14日に設置された。当時の委員は全12人で、学会の重鎮が並んだ。

 だが当時、新型コロナは正体不明で、その特性が世界中の研究成果から次第に明らかになる状況だった(第243回)。日本の重鎮たちも、最初から「新型コロナの専門家」だったわけではない。

 そのため仕方のない面もあるが、「お墨付き」以外にも臨機応変な対応が求められた結果、さまざまな対策が後手に回ることになったのは事実だ。

 特に深刻だったのは、ワクチンの開発・接種の遅れだ。当初の日本はワクチン接種の開始がG7で最も遅く、接種率は「世界最低レベル」だった(第271回)。