「医療再崩壊」を防ぐ秘策は
「自衛隊野戦病院」の設置だ

 人選から話がそれるが、25年に設立予定の「国立健康危機管理研究機構」(日本版CDC)にも期待が持てる。この組織は、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの合併によって創設される。

 国立感染症研究所は米疾病対策センター(CDC)と、国際医療センターは英オックスフォード大学やウェルカム財団などと、それぞれ国際的なネットワークを持っている(第49回)。そうした強みを持つ両者が統合すれば、世界最先端の情報を得やすくなるだろう。もし今後、新たな感染症が広がったとしても、日本独自のワクチンや治療薬を開発可能になるかもしれない。

 だが、一連の改革を経ても医療体制の問題が改善されるかは微妙なところだ。

 政府の権限を強化し、平時から病院と協定を結んでいても、新たなパンデミックが発生した際は、相変わらず病床確保に時間がかかるのではないか。日本の医療体制は、英国など諸外国に比べて複雑すぎるのだ(第283回)。

 では、日本は今後どうすべきなのか。

 その答えの一つとして、かねて本連載では「自衛隊による大規模野戦病院」の設置を提案してきた(第283回)。自衛隊には、医官・看護官がそれぞれ約1000人ずつ在籍している。パンデミック時には彼・彼女らが出動し、感染症患者を収容する専用病院を臨時で設置するのだ。

 この案は、英国軍の支援によって英国内に設置された、新型コロナ対策の野戦病院「ナイチンゲール病院」を参考にしたものだ(第282回)。英国軍は「コロナ支援部隊」を結成し、ナショナルヘルスサービス(NHS:国営の医療サービスを提供するシステム)を支援して、医療崩壊を防いだのだ。

 もちろん日本でも、自衛隊中央病院がコロナ患者を受け入れたり、医官と看護官がワクチン接種に協力したりと、自衛隊による支援が行われてきた。こういった施策がさらに進歩すれば、病床が不足する事態を防げるはずだ。

 医療崩壊を防ぐに当たって、既存の病院・クリニックの限られたリソースのやりくりでは限界がある。新たな強毒性の感染症に備える上では、現行の医療体制の「外側」に存在する自衛隊の医療人材・機材に頼れる仕組みを構築するのが合理的ではないか。

 昨今は日英の安全保障関係が強化されており、英国の助言も受けられる状況にある。今回、改めて提案しておきたい。