だが、ある程度の経験を積んだ登山者でも、それがなかなか実行できない。ルートを外れれば、どこかの時点で必ず気づくはずなのだが、そこで行動を停止せず、さらに先へと進んでしまう。これが道迷い遭難に陥る典型的なパターンだ。
不審に感じながらも引き返せないのは、異常を感知できずに正常な範囲のものとして処理する正常性バイアス、物事を自分の都合のいいように捉える楽観主義バイアスなど、さまざまな認知バイアスが作用するからである。
羽根田 治 著
とくに道迷いは下りで起こりやすく、登り返すことの体力の消耗度や、日没までの時間的制約などを考えると、「どうにかなるだろう」と自分自身を納得させて、そのまま進んでいってしまう。しかし、たいていの場合はどうにもならず、道迷いの泥沼へとはまり込んでいく。
そうならないためには、「おかしいな」と感じた時点でストップして休憩をとり、地図を見るなり行動食を食べるなりして気持ちを落ち着かせてから、たどってきたルートを引き返そう。引き返せない場合は、焦ってあちこち歩き回らず、携帯電話が通じるところから救助を要請するのが賢明だ。
山では、地図や登山用地図アプリなどを使って現在地を確認しながら行動すれば、道に迷うリスクを低減できる。積雪で夏道が隠されているシーズンは、とくに慎重に現在地を確認する必要がある。また、スマートフォンで現在地の緯度経度を知る方法も覚えておき、救助要請時にはそれを伝えるようにしたい。