本連載では、上場企業の代表やアセットオーナーなどへのインタビューを通じ、ステークホルダーとの対話や対外戦略におけるヒントを探っている。6回目は、マネックスグループ創業者で会長の松本大氏。
資本市場の成長には独立した立場からの見識が必要
──東京証券取引所のいわゆる「PBR1倍割れ改善要請」から5カ月がたちました。東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」メンバーであり、また投資家として上場企業と対話を行っている立場から、要請をどのように評価していますか
自社株買いの実施や政策保有株式の縮減などを通じてPBR(株価純資産倍率)を1倍、2倍へ戻そうという企業が現れ、株価も上がったという点で一定の効果はあったと評価している。他方、まったく反応が見られなかった企業や、反応はしたが継続的に取り組む姿勢があまり見られない企業も多い。これらの企業がきちんと動けば、もっと株価が良くなるポテンシャルがあると思っている。
──なぜ反応が鈍い企業もあるのでしょうか
やはり安定株主が多い企業には、対応が消極的な経営者が一定数いる印象を受ける。もちろん、そのような企業の中にも本気で変化しようとしているところもある。だが、市場から聞こえてくるさまざまな声やプレッシャーに対応しなくとも、解任されるケースは多いわけではない。
政策保有株式の縮減は、ある程度の規律をもって進めなければならない。その一方で、安全保障上の問題など、わが国を取り巻く環境の複雑さに鑑みれば、シンプルなルールの下で安定株主を完全になくしていくことが、日本国の国益に資するわけではないのも自明である。そうした国全体としてのロジックとのバランスを取る意味でも、政府のみならず、東証や市場参加者も資本市場のあるべき姿について、しっかりと声を上げ続けていくことが重要だと考えている。