SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が2019年にぶち上げた手数料の完全無料化。それは業界2位、楽天証券ホールディングス(HD)の上場計画にも直撃する。マネックスグループや松井証券らへの影響度も計り知れない。果たして生き残りは可能なのか。特集『ネット証券 ゼロの衝撃』(全6回)の#1では、親会社の金策で上場を目指す業界2位の楽天証券HDを見舞うSBI“無料化爆弾”の影響と、各社の生き残り戦略を占う。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
株式売買手数料、自由化の帰結
北尾氏が仕掛ける“大淘汰”の行方は
「うちがゼロコミッションに踏み切ったら、もっと大変なことになりますよ」「顧客中心主義は必然的に、業界の淘汰を促進していくんです」――。
インターネット証券最大手のSBI証券を擁するSBIホールディングス(HD)を率いるグループ“総帥”の北尾吉孝会長兼社長が2019年にぶち上げたゼロコミッション化、すなわち国内株式売買手数料の完全無料化が、北尾氏の宣言通りに進めば、今年9月末までに始まる。22年5月の記者会見では冒頭のように、実現による影響を“警告”していた。
日本ではSBIをはじめとしたネット証券が1990年代後半に勃興し、いわゆる「金融ビッグバン」の流れに乗って、99年には売買手数料が完全に自由化された。対面証券の牙城だった個人の株式売買はネット証券に奪われ、彼らのリテール営業は様変わりを強いられた。
とりわけSBIHDは証券だけでなく、生命・損害保険などへもビジネスを拡大。21年には新生銀行(現SBI新生銀行)を傘下に入れた。孫正義氏率いるソフトバンク(現ソフトバンクグループ)から99年にスピンオフして以来、北尾氏は約20年で年間営業収益8000億円をうかがうネット金融の一大コングロマリットを築き上げた。
北尾氏の勢いはとどまるところを知らない。SBI証券は25歳未満など一部で無料化を実施してきたが、完全無料化でまずはネット証券のライバルを蹴散らし、自身の出身母体である業界最大手、野村ホールディングスに肉薄していけるのだろうか。
業界2位の楽天証券ホールディングス(HD)はこれを迎え撃つ格好となるはずだったが、現在の同社の上場計画と、携帯電話事業で大赤字の親会社、楽天グループの事情を考えれば、それどころではない。