具体的な理由に入る前に、前提条件をおさらいしておこう。

 そもそも、新薬を販売するには国からの承認を受ける必要がある。その承認を受けるために必須なのが「治験」だ。これは、新薬の候補を患者に使ってもらい、本当に効き目があるのか、安全に使用できるのかを確かめるプロセスのこと。

 専門家によると、この治験においても課題があるという。

「特に、初めて患者さんに新しい薬を使ってもらうような場面では、どんな副作用が出るのか予想できないこともあり、治験の経験が豊富な病院で実施することが求められます。希少がんや小児がんのように、東京圏にある限られた病院でしか実施されないような治験も多くあります」

日本の新薬開発が海外より「圧倒的に遅い」理由、コロナ禍で格差が露呈薬剤の開発に欠かせない「治験」。これまでは患者が病院へ出向いていたが、リモートを利用した方法が、世界ではすでに普及し始めている

 MICIN(マイシン)オンライン医療事業部の草間亮一さんはこう話す。

 同社は、オンライン診療を主要事業としていたが、コロナ禍になり、製薬会社から治験に関する相談が増えてきたという。そのため、2020年にDCTソリューションの提供を開始し、現在日本におけるDCTの普及に取り組んでいる。

 草間さんは、治験が抱える課題の一つは「参加希望者を集めることが難しいこと」だと指摘する。

「治療を受けている病院で治験をやっていない場合、そもそも治験の説明を聞くためだけであっても遠方の病院に行く必要がありました。もし治験に入れたとしても、地方の患者さんが定期的に遠方の病院へ赴くのは、金銭的にも体力的にも大きな負担がかかります。そのため、そもそも治験に参加したいと思う患者さんを集めるのが難しい場面が多くありました」

 治験に必要な人数の患者を集めるのに時間がかかれば、当然、新薬が世に出るまでの時間が長くなってしまう。しかし、この課題はDCTで解決できるという。

「DCTは、治験の説明をオンラインで受けられ、一部の診療を地元の病院と連携して遠隔で実施できるため、遠方の患者さんにとっての治験参加の負担を下げることができます」(草間さん、以下同)