不安になることにもメリットがある
しかし、不安になるのも、決して悪いことではない。これからは残り時間を考えながら優先順位を検討し、まずはどのように過ごすかを決めていかねばならないとなると、何となく惰性で暮らしていた人も気持ちが引き締まり、悔いのないように自分が納得できる生活に向けて踏み出すことができるかもしれない。
私たちは惰性に流されがちであり、今の生活を変えるには、かなりの覚悟がいる。すでに楽しく充実した生活を送っているという場合はそのままでいいが、「何か物足りないなあ、納得のいく人生を歩んでいる気がしないなあ」と感じている人は、もっと充実した、納得のいく生活に向けて一歩踏み出す必要がある。頭ではそう分かっていても、ついめんどくさくなり、惰性で過ごしてしまいがちだ。そんな人にとっては、健康寿命を意識するのは、覚悟して一歩を踏み出すきっかけになるだろう。
ゆっくりと自分を振り返る間もなく、目の前の課題解決に向けて、あるいは課せられたノルマ達成に向けて、日々、ひたすら走り続けてきた。そんな心の余裕のない生活から解放されるのである。絶えず急かされている感じがあり、「今」をじっくり味わうことなく通り過ぎていくような毎日から解放されるのである。
焦るよりも、これから手に入る自由に目を向ける
そこで目を向けたいのが、定年後だからこそ手に入る、大きな自由である。
「定年退職」というと、仕事を失う、職業上の役割を奪われる……というように、なぜか否定的なイメージでとらえられがちである。しかし学生の頃、これから就職して何十年も働き続けなければならないと思うと憂鬱な気分にならなかっただろうか。そこまでではないにしても、就職する直前、自由を謳歌する学生時代が終ってしまうことに一抹の淋しさを感じなかっただろうか。
私たちは変化を恐れる。どんなに充実した生活をしている人であっても、惰性で動いている部分はあるものだ。そのため、職業生活が終わりを告げる際には、これまで惰性で動いていた部分が失われ、生活のすべての部分を自分で組み立てていかなければならなくなる。それには気力が必要だ。心のエネルギーを注入する必要がある。これまでのやり方を続けるわけにはいかない。それが不安をもたらし、ストレスになる。