肉をマリネ処理すると柔らかくなる理由

 肉を美味しく、柔らかく調理するために「マリネ処理」をすることがあります。実はこれにもpHが深く関わっているのです。

 肉の種類にもよりますが、生肉はほぼ中性、つまりpHは7.0付近です。タンパク質にはプラスイオンとマイナスイオンが存在し、その個数は肉を調理する液体のpHによって変化します。そして、肉の中でプラスイオンとマイナスイオンの総個数が等しくなった状態を「等電点」といい、その状態の肉のpHは5.5になります。

 肉のpHがこの等電点に近ければ近いほど、プラスイオンとマイナスイオンが引き付け合い、タンパク分子間の引力が強まります。そのため、肉の水分が絞り出されて、パサつく原因となるのです。

 そこで、レモン汁や食酢、ワインなど酸性の液体に肉を浸けるマリネ処理をし、pHを5.5より下げる(酸性に傾ける)と、タンパク質同士の収縮が抑えられ、しっとりと柔らかい肉に調理することができるのです。

 逆に、重曹などを用いてpHを上げる(アルカリ性に傾ける)ことでも同様の原理で肉の保水性を高めることが可能です。

「エナメル質臨界pH」を下回ると歯が溶け始める

 私たちの健康もpHと深く関わっています。たとえば、糖分の多いジュース、特に炭酸飲料ばかり口にしていると虫歯になりやすいといわれます。

 通常、口の中は中性に保たれていますが、食事をすると口内にいる虫歯菌が食べかすを代謝して酸を作るなどしてpHが下がります。「エナメル質臨界pH」という言葉を耳にしたことがある人もいるかもしれませんが、これは歯の表面を覆っているエナメル質が酸によって溶け出すpHを指し、その値は約5.5です。口の中のpHがこれより下がると、歯からカルシウムやリンが溶け出し、虫歯の原因となります。これを「脱灰」といいます。