欧州のイデオロギーは気候変動
米国では政治や経済との折り合いも

 欧州と米国では気候変動への対応に違いがある。欧州では揺るぎないイデオロギーとして気候変動への取り組みが進んでいる。開示指針である欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)がその拠り所である。

 ESRSではE(環境)、S(社会)、G(企業統治)など計10項目の開示草案が示されている。欧州企業は、これに基づいた欧州企業サステナビリティ報告指令(CSRD)によって、24年1月以降、大規模企業より順次基準が適用されることとなる。

 米国でも金融業界が原動力となり、気候変動への対応を進展させてきた。米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して示唆した開示標準規則案がその一例である。

 この中では、温室効果ガス(GHG)排出量の開示が必須化された。大規模企業を対象として、Scope1(直接排出)及びScope2(間接排出)が早くて23年度から、24年度以降はScope3(サプライチェーン排出)も開示対象となる。

 しかし、米国では天然資源を力の源泉とする「赤い州」を中心に政界から逆風が吹いている。欧州でイデオロギーとなった「気候変動」が、米国では政治や経済との折り合いをつけ始めた。

 例えば、世界最大の運用会社でありESGの急先鋒だったブラックロックのラリー・フィンクCEOは、「(ESGという用語を)もう使うつもりはない」と発言した。格付け大手のS&Pグローバル・レーティングは、ESG定量評価の公表停止を発表した。