日本企業の「S」への対応
実態のレベルアップを

 一方、欧米で重要性が高まるS(社会)について日本企業の対応を見てみよう。Sの主要項目である人的資本に関して、数社を除くほとんどの日本企業が、戦略(「人材育成方針」「社内環境整備方針」のみを含む)に関する項目及び内容開示が見られた。人的資本に関する開示義務化の効果は、少なくとも形式的にはあったといえる。しかし、実態と形式は乖離していないだろうか。

 日本のジェンダー問題、多様性の受容度合いに関する国際的な評価は、先進国の中で最低水準のままだ。開示上の形式だけを整えても、世界の企業や有能人材からリスペクトされるわけではない。

 今回、サステナビリティ開示の優等生ぶりを示した日本企業に求められることは、形式的な開示は当然のこととして対応しつつ、中身の実践・実現を突き詰めることだ。そして、「E」(環境)偏向からのシフトだ。

 ESGのうち、Eについては欧米の動きを横目で見ながら、これまで通りやればよい。むしろ、グローバルに有能な人材を獲得し合うというゲームが始まっている現在、重要性が高まっているのはSだ。

 形式的なSに関するサステナビリティ情報開示に留まるのではなく、実質的なSのレベルアップこそが日本企業の浮沈を左右する。

(フロンティア・マネジメント シニア・ディレクター 今堀元皓)