「全国で空き家が急増している」という報道をしばしば見聞きする。だが総務省の調査結果を確認すると、空き家の増加率は必ずしも危機的水準ではないことが分かる。以前は「コロナ禍を機に不動産バブルが崩壊する」という記事もよく見かけたが、不動産価格は上がる一方だ。不動産を巡る情報は全てが正しいわけではないのだ。人々のバイアスを強めるような報道に左右されず、データや事実に基づいて業界動向をウオッチするための心構えをお伝えする。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
「確証バイアス」がかかると
物事の本質を見失う
今回は不動産を取りまく報道と、その受け止め方について警鐘を鳴らしたい。
人々が自身の思い込みや先入観を肯定するために、自分に都合の良い情報ばかりを集める傾向を「確証バイアス」(以下、バイアス)という。この傾向は誰にでも多かれ少なかれあり、0%にはできないだろう。
「血液型占い」もバイアスの良い例だ。「A型は几帳面」という通説に合致する人ばかりに目が行き、「あの人はキッチリしていると思ったら、やっぱりA型か」などと思い込む。一方で、ずぼらなA型の人がいても例外として無視する。
最近の例だと「コロナ離婚」も似たようなものかもしれない。新型コロナウイルス感染拡大を機にステイホームとなり、夫婦が共にいる時間が増えたことで欠点が目に付き、離婚が増えたという話だ。それが日本で頻繁に起きていると思い込み、離婚関連の記事などに日常的に触れるようになった結果、バイアスから抜け出せなくなるのだ。
だが厚生労働省による「離婚件数の年次推移」を見てみると、2020年の離婚件数は前年よりもむしろ減少している。
本題に入ると、不動産関連で人々にバイアスがかかりやすいのは「空き家問題」だ。「少子高齢化に伴い、住人がいなくなって放置される空き家が猛スピードで増え、社会問題化している」というのが通説となり、メディアなどでしばしば取り沙汰されている。
その結果、人々は空き家の増加率が危機的状況に達していると思い込む。だが実は、増加率は必ずしも高水準というわけではない。
誤解が広がる端緒となったのは、野村総合研究所が15年に発表した予測値だと私は考える。