持ち家を売って資金を得た後、そのまま賃貸契約を結んで住み続けられる「リースバック」。この不動産取引は高齢者などから需要があるようだが、契約者は下手をすれば自宅を失うリスクがある。不動産事業者が設定する買い取り金額は相場より安く、家賃は高くなりがちだからだ。筆者が「許せない」と感じる取引の問題点を詳しく解説する。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
親のすみかが奪われる!?
リースバックに潜む大損リスク
生まれ育った実家や、両親のすみかを失っている人が急増中だ。広告で見ることも増えている「リースバック」という不動産取引が原因で、国土交通省や国民生活センターが注意喚起を行っている。
お盆は過ぎたが、もしこれから実家に帰る機会があれば、このリースバックには気を付けるよう親に話しておいた方がいい。
リースバックとは、自宅(持ち家)を不動産事業者に売却して資金を得た一般消費者が、賃貸契約を結んで同じ物件に住み続けられる仕組みだ。高齢者などから需要があり、最近は戸建て住宅のリースバックを手掛ける不動産事業者が増えている。
だが、この手法で得られる売却代金は、一般的な取引よりも大幅に安いことが多い。それどころか、賃貸契約後の家賃は相場よりも高くなりがちだ。ビジネスそのものは現行法では問題ないのかもしれないが、筆者はこれらを「法外」な水準だと思っている。
それでもお金に困っている高齢者は、自宅を売却して老後資金を手に入れられるだけでなく、そこに「住み続けられる」という殺し文句で相場を知らずに契約してしまう。
契約者は自分名義ではなくなった家に、昨日までと同様に住み続けることができるが、その裏側では大損するリスクがある。最悪の場合はホームレスになってしまう。
というのも、リースバックを手掛ける不動産事業者にとって、期待利回り(年率)はなんと約7~12%ある。買い取り価格の最大12%程度の金額を、家賃収入として毎年受け取ることができるのだ。
だが契約者側にとってみれば、仮に相場通りの金額で自宅を売却できても、その資金は約8~14年でなくなってしまう。そして、これはあくまで理論上の数値だ。実際に手に入る資金は相場以下になるので、もっと短い期間で底を突くと考えた方がいい。
この実態を考えると、リースバックを使わずに自宅を持っていた方が得である。すでに仕事を引退し、年金生活をしている高齢者はなおさらだ。安易に手を出した結果、再び資金繰りに苦慮して家賃を支払えなくなり、数年後に家を失う事態に発展するかもしれない。