コロナ禍後の電鉄会社が
「百貨店より再開発」を選ぶ事情

 鉄道系百貨店と呉服系百貨店、その明暗が分かれる原因をざっくり言うと、「経営の主導権が百貨店そのものにあるか、鉄道会社にあるか」だろう。

 鉄道系百貨店はおおむねターミナル駅に直結し、例えば池袋駅なら1日平均乗降客数は約179万人(20年度)で、大量の人流があるエリアの一等地に立地する。それゆえ、たとえこの場所で百貨店が収益を上げていても、鉄道会社にとって「百貨店よりもっと収益がいい」「会社としてのブランドイメージを向上できる」案件があれば、再開発とともに入れ替える判断を下されがちだ。特に近年はコロナ禍もあって小売部門の力が落ちており、百貨店側から意見することは難しい。

 先に述べた東急百貨店本店の場合、跡地は「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」の一環として地上36階・地下4階・高さ164.8mのビルが建設される(22年7月21日付け公表文)。入居するのは、海外で観光客獲得にノウハウを持つ「スワイヤー・ホテルズ」が手掛けるラグジュアリーホテル、高級賃貸マンションなど、インバウンドや富裕層に照準を合わせたラインナップとなっている。

 同店は近隣の松濤地区などの富裕層の支持が根強いものの、東急電鉄からすると、「渋谷に新たなインバウンドを呼び込み、金を落としてもらおう」「スクランブル交差点で写真を撮って終わり、の状態を改善したい」といった考えもあろうことは想像に難くない。なお、計画では「洗練されたライフスタイルを提案するリテール」という表現で商業施設の入居が伝えられているが、東急百貨店がそのまま入ることはないという。

西武池袋は売却、東急本店は閉店…首都圏の電鉄系百貨店「縮小・撤退ドミノ」の理由松坂屋銀座店が閉店した後、商業施設の銀座SIXに Photo:PIXTA

 一方、呉服系百貨店はどうか。多くの場合、自社で株を持ち経営判断の決定権を持っている。例えばJ.フロントリテイリング(大丸・松坂屋の持ち株会社)の場合、長らく業績不振が続いた「松坂屋銀座店」が13年6月に閉店した後、跡地は商業施設「銀座SIX」を据え、J.フロントは手堅くテナント賃料を得る道を選んだ。今その収益はJ.フロントを潤し、旗艦店である「大丸心斎橋店」や「松坂屋名古屋店」の改装、セゾングループから継承したファッションビル・パルコの営業力強化など、今後の生き残りへの原資に充てられている。