いくら賢い人でも自己モニターをせずに慢心していると、正しい判断ができなくなります。その典型例が豊田真由子元国会議員の秘書への暴言や暴行です。彼女は東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省しハーバード大学大学院へ国費留学をした超エリートですが、怒りの感情にまかせて秘書を「ハゲ」と怒鳴りつけました。彼女も勉強はできても「自己モニター」ができない前頭葉バカだったということでしょう。

 ここでひとつお伝えしておきたいのは、感情が「悪」ではないということです。マイナスの感情や怒りは、人間を成長させる原動力にもなります。重要なのはマイナスの感情を、前頭葉を使って自制することです。感情をコントロールできるかできないかで、人生で大きな差がつきます。

 人間は弱い生き物ゆえ、自己を守るためにさまざまな対策を試みます。たとえば「人を敵か味方かで判断してしまう」「0か100かで考えがち」「自分に得か損かだけで決める」という人はかなり多いのではないでしょうか。これらは人類が長い歴史の中で生き残るために身につけた防御本能ともいえますが、いきすぎると前頭葉バカまっしぐらです。

書影『前頭葉バカ社会 自分がバカだと気づかない人たち』(アチーブメント出版)『前頭葉バカ社会 自分がバカだと気づかない人たち』(アチーブメント出版)
和田秀樹 著

 白黒ハッキリつけたがる「二分割思考」の人たちの知的レベルは決して低くありません。むしろ、能力が高い人ほど前頭葉バカに陥りやすい傾向があります。つまらないプライドやこだわりに固執せず、他者の意見に耳を傾け、結果が良ければそれで良いと考えましょう。

 これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる不確実性の時代には、「問題解決能力」がある人間が富を生み出してきました。

 ところが、将来はAIが問題を解決してくれるので、問題点を発見し、解決にいたる仮説を立てる「問題発見能力」も大切です。そして、ただ問題を発見するだけ、仮説を立てるだけでなく、実際に「試す」「実験する」ことが今後は非常に重要になるでしょう。

 自分が学んできた理論をふりかざし、「そんなことも知らないのか」と上から目線であぐらをかくのは典型的な前頭葉バカです。「自分にもまだ知らないことがある」という知的謙虚さが大切です。それ以上に重要なのは、試す前から答えが出ることはない、という当たり前の真理に気づくことです。こうした謙虚さとチャレンジ精神こそが前頭葉バカを回避する鍵です。