専用レーンの設置を前提とする
JR西日本のプロジェクト
実験が行われるのは広島県東広島市の中心市街地、山陽本線の西条駅だ。駅前から伸びる「ブールバール(フランス語で街路樹などを備えた大通りのこと)」と呼ばれる片側2車線道路の駅前~広島大学東広島キャンパス間約5キロを連節バスと大型バスが自動運転で走行し、西条バイパス交差点~広大前交番交差点間(約2キロ)のうち数百メートルで隊列走行を行う。
将来的には先頭車両がレベル3自動運転(運転手が添乗する自動運転)、隊列を組む後続車両はレベル4自動運転(無人の自動運転)を想定するが、今回は全ての車両に運転手が乗務し、運転手が運転操作の主体となるレベル2自動運転の形で行われる。
実験の目的は自動運転・隊列走行技術の社会実装に向けた課題の検証・洗い出し。あわせてBRTが実際に街中を走ることで、市民に関心を持ってもらい、実用化の機運を高めたいとしている。期間は今年11月から2024年2月だ。
バス輸送には、どうしてもネガティブな印象が付きまとう。ローカルでは鉄道廃止からのバス転換という「格落ち」イメージが強く、都市部では速度が遅く、到着時間が読めないという弱みがある。
しかし、バスの車両価格は鉄道より格段に安く、公道上を走るため設備保有の負担が必要ないというメリットは捨てがたい。そこで専用道やバス専用レーンを走行し、信号制御と組み合わせることで、バスでありながら鉄道と同等の速度、定時性を確保するのがBRT(Bus Rapid Transit)だ。
日本では被災したJR東日本の気仙沼線・大船渡線、JR九州の日田彦山線を専用道に転換したBRT化の事例からローカルな交通機関のイメージがあるが、本来はある程度の利用者がいる地方都市などに向いたシステムである。
また都市部でも連節バスの導入をもって「BRT」と称する例が見られるが、どのような車両を用いたとしても「Rapid」つまり速達性を確保できなければBRTではない。そういった意味では、未だに日本には正しい意味でのBRTは誕生していない。
ここに風穴を開けうるのがJR西日本のプロジェクトである。不破邦博イノベーション本部次世代モビリティ開発担当課長は、「Rapid」でななければBRTではないと強調し、専用レーンの設置がBRT導入の前提であると語る。
JR西日本と東広島市が手を結んだのは昨年11月。東広島市の地域振興部地域政策課によれば地元の広島大学が取り持つ形で連携協定を締結した。次世代の交通システムとして、曜日や時間ごとの需要の変化に柔軟に対応できる隊列走行BRTに注目し、定時性、速達性を確保し、自動運転が導入しやすいバス専用レーンの導入を計画した市と、バス専用レーンを前提とした受け入れ先を探していたJR西日本と思惑が一致した。
ただ既存の車線を転用する専用レーンの設置は容易ではない。東広島市は今年4月に「自動運転・隊列走行BRT検討分科会」を設置し、バス専用レーンを設置した場合の道路交通への影響、道路・信号設備の改修、行政的手続きなどの検証を進めているが、市は「実現までのハードルは高いと認識している」と述べる。
そのため今回の実験にあたっては、仮設バス専用レーンの設置も検討されたが、見送られた。なおJR西日本は15日の記者会見で、仮設バス専用レーンを設置するとも受け取れる説明をしており、これを受けた報道も見受けられるが、東広島市に確認したところ設置はないとのこと。JR西日本への追加取材でもこれを確認した。