3カ月半の紆余曲折を経て
誕生したセター新政権
9月5日、タイでようやく新政権が発足した。
タイでは5月の下院総選挙(定数500)で、国政を担ってきた親軍の2党(「国民国家の力党」40議席、「タイ団結国家建設党」36議席)が大幅に議席を減らした一方、軍の影響力排除を掲げた革新系の「前進党」(152議席)とタクシン元首相派の「タイ貢献党」(141議席)の2党で過半数を確保した。そのため、一時は野党8党が、前進党のピター党首を首相候補とする連立政権樹立構想で合意した。
しかし、7月、(1)上院(定数250、議員は国軍が指名)との合同投票による首相指名選挙でピター氏が過半数に至らず選出失敗となったことや、(2)ピター氏が選挙関連法に違反した疑いで憲法裁から議員資格の一時停止処分を受けた(議会も首相候補資格の無効を決定した)ことなどから、当初の連立構想が頓挫。
その後、諸政党間の駆け引きの結果、第1党の前進党が連立の枠組みから外れる一方、親軍2党などが合流した11党(下院での合計議席数314)による大連立が成立することになり、8月22日に第2党・タイ貢献党のセター氏が新首相に選出され、3カ月半の政治空白がようやく解消されるに至った。セター氏は民間非議員で、4月まで大手不動産開発会社の社長を務めていた人物である。
ただ、タイ貢献党は首相を擁立した半面、選挙公約に反して親軍政党との連立を選択したことになる。チョラナン党首は8月末に党首を引責辞任すると発表したが、新政権で保健相のポストを担うことにもなり、これを同党に投票した有権者が改めて批判的な受け止め方をしているのは想像に難くない。
(1)下院第1党の前進党を野党に回し、総選挙で示された民意が十分に裏付けられた政権の枠組みではないこと、(2)「タイ貢献党のコア支持者の38%が今回の大連立に反対」との現地アンケート結果(8月時点)なども踏まえると、セター新政権は今後、政策で成果を示して国民の信頼を獲得し、政権基盤の安定につなげていく必要がある。