「Z世代のアメリカ」はどこへ向かうか?日本はどうすべきか?撮影:佐藤類

Z世代(1997〜2012年生まれ)が今後いよいよ社会の中心となり、アメリカを動かしていく。来年の大統領選挙にも大きな影響を及ぼすことになる。彼らはどのような思考で、いかに行動するのか。その言動の背景にあるアメリカの現状はどうなっていて、未来はどう変わるのか。そうした問いに答えを提示する『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)の著者、三牧聖子氏をロングインタビューした。後編では、アメリカが“世界の警察官”でなくなった現実を前に、日本はどうすべきかについてなども聞いた。(聞き手・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪亮)

副大統領ハリスはなぜ不人気か?
中道であることの難しさ

――副大統領のカマラ・ハリスについて書かれた章(第6章)では、「多様性を象徴する存在」であったハリスが不人気になった原因が考察されています。1年前の共著『私たちが声を上げるとき アメリカを変えた10の問い』では、「はじめに」や「おわりに」はハリスへの期待を感じさせる論考となっていましたが、彼女も為政者として妥協を繰り返してしまったのでしょうか。

 私ももちろんハリスの不人気ぶりをあげつらいたいわけではなく、マイノリティの女性政治家としての困難を体現する存在として分析しました。

 2020年大統領選に勝利した結果、ハリスは黒人、アジア系、そして女性として初の副大統領となり、当時は将来的には最も有力な女性大統領候補になるとまでいわれていましたが、現在その人気は、危機的なレベルにまで低迷しています。

 今年6月のNBCニュースの調査で、ハリスに否定的な見解を抱いていると回答した人は49%にのぼり、肯定的な見解を抱いていると回答した32%を凌駕しました。

 なぜ、ここまで不人気なのか。黒人女性という属性ゆえにハリスは、「既存の政治を変えてくれるかもしれない」という期待を、おそらく過剰に集めてきました。他方、政治家としてのハリスは中道派で、その時々の状況に応じて政策的な主張を変えてきた。こうした柔軟さゆえに、バイデン政権の副大統領の地位に上り詰められた面もあります。

「Z世代のアメリカ」はどこへ向かうか?日本はどうすべきか?

 しかし今日のアメリカでは、特に政治家たちの口先だけの改革論に飽き飽きしてきたZ世代は、政治家にますます「誠実さ」や「インテグリティ(統合性)」を求めるようになっています。

 この世代にサンダースが絶大な人気を誇っている理由も、労働者の権利やメディケア・フォ・オール(国民皆保険)など、彼の政策的な主張が一貫していることにあります。

 これに対してハリスは、警察改革にしても、移民難民対策にしても、副大統領の座に着く前と着いた後で一貫性を欠いています。自身の名を全米レベルの知名度にした性差別是正運動「#Me Too」運動への関与すら、一貫できていない面がある。Z世代はこういった政治家の欺瞞に非常に敏感であり、ハリスは厳しい目を向けられてきました。

 もっとも、民主党と共和党の対立が進むばかりのアメリカにあっては、両極を橋渡しをするような、中道の政治家は必要です。

 中道の政治家が必要な状況であるのに、中道的なポジションをとると、人々の不人気を買ってしまう。そこで、支持を集めるためにだんだん極端な主張を掲げるようになってしまう。こういう問題はアメリカだけでなく、日本政治にも共通しているところがあるかもしれません。

『Z世代のアメリカ』では、ハリスを称賛するのでも、断罪するのでもなく、フェアに評価したいと思いました。

――最終章の第7章「揺らぐ中絶の権利」には、「社会運動では勝っても、権力闘争では負けるリベラル?」という悲観的に見える節もあります。

 もちろん、社会運動の価値や意義はまったく否定しません。しかし、運動やアドボカシーを通じて社会にいくらリベラルな価値観が普及し、多くの人々が個人の権利や自由を大事に考えるようになっていても、州議会や最高裁などの権力の座を保守派に握られてしまっていては、重要な権利や自由を守りきれません。

 2022年6月に最高裁がロー対ウェイド判決を破棄し、数十年間定着してきた人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定したこと、その結果、厳しい中絶制限を行う州が多数でてきたことはその端的な例です。

 この判決の背景には、保守派が絶対多数となった最高裁の構成がある。自分の任期中に合計3名の保守派判事を最高裁に入れた前大統領トランプの強引な手腕は誉められたものではありませんが、民主党側も、権力闘争を嫌悪し、共和党のやり方を批判しているだけではこの状況は変わりません。

 人々の権利や自由を守るために、リベラル側にも長いスパンで、どのように権力を取り戻していくかという戦略が必要だと思います。