「対話」でしか終わらぬ戦争、今対話できるのは誰か

 例えば、今年4月にアメリカの元政府高官らがニューヨークでロシアのラブロフ外相と極秘会談し、停戦に向けた交渉の糸口を探っていた、ということをアメリカのNBCテレビが報じた。

 この元政府高官はバイデン政権の指示で動いたわけではない。つまり、立場としては鈴木宗男氏とほぼ同じ「政府を介さない個人外交」をしていたわけだ。

 この報道後、アメリカ社会で「なに?ロシアの高官と政府を介さずに会談をしただと?そんな国賊はさっさと捕まえて反逆罪にしろ!」みたいな大騒ぎにはなっていない。これでわかるように、泥沼化した戦争を終結させるために、公式・非公式を問わずありとあらゆる「対話チャンネル」を利用することは当たり前だ。実際、報道によれば、この元高官が得た情報は、ホワイトハウスに共有されたという。

「政府を介した外交」だけではどうしても建前的な対話しかできないので、戦争や紛争のような国家間の利害が衝突する「本音ベース」の対話ができない。政府の会談内容はオープンにされるので、自国民にもどんな交渉をしたのかが伝わって、政権の支持率などにも露骨に影響が出てしまうからだ。

 昨年11月、アメリカのジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、アメリカの利益のために、アメリカ政府とロシア政府の対話チャンネルは開かれたままだと認めたように、この泥沼化した戦争を最終的に終わらせるのは、「対話」しかないことは明らかだ。

「戦争」というものを映画やマンガでしか知らない人は、「悪の帝国」を正義の国が団結してみんなで追いつめて、独裁者プーチンが「私が悪うございました」と泣いて降参してめでたしめでたし……という理想的なストーリーを思い描いているだろうが、現実世界でそのような終わり方をした戦争はほとんどない。

 相手の軍は撤退しても内戦が長期化するとか、国が分断されるとか悲惨なことになって、今以上に多くの人が死ぬ。最悪、かつての日本のように「一億総玉砕」とか徹底抗戦を叫んでいるうちに、核兵器などの大量破壊兵器を使われる恐れもある。

 しかも、西側諸国と日本はそれなりに団結しているが、世界にはロシアの「友好国」や「中立国」が山ほどある。つまり、1年くらい前に盛んに言われた、「ロシアを国際社会の中で孤立させて戦争をやめさせる」というのは夢物語に過ぎないのだ。だから、国連もどうにかしてプーチンと「対話」しようとしている。

 そういう世界の現実を踏まえれば、ロシアとズブ……ではなく、太いパイプのある鈴木宗男氏が、「個人外交」をすることを何も問題はない。

「親ロシアの鈴木氏が行ってもロシアに利用されるだけだ」とか言う人もいるが、そもそも平時から外交というのは「狐と狸の化かし合い」である。

 ロシア側は鈴木氏にこういう情報をつかませてきた、ということを想定しつつ、日本政府も鈴木氏から情報を得ればいいし、鈴木氏のパイプを逆に利用すればいいだけの話だ。

 という話を聞いても、腹の虫がおさまらない人も多いだろう。そういう方たちがよく言うのは、「政府が渡航中止勧告をして、国家間に緊張が走っているこのタイミングで、国会議員が行くのは背信行為」というものだ。

 しかし、個人的には国会議員という立場だからこそ、今のように両国の関係が冷え込んでいる時だからこそ、ロシアに行くべきだと考えている。

 なぜかというと、「日本人」の安全を守るためだ。