そこで改めて、90年代から12年まで日本の成長が欧米に後れを取った要因をデータで確認しよう。まず、製造業や情報通信業など、他国でけん引役となった産業における生産性の伸びが鈍かった。加えて、保健衛生および社会事業や、東日本大震災後に電気・ガス産業などで生産性が低下した。さらに、金融・保険業など相対的に生産性が高い産業への労働力の移動が、他国対比で進まなかった。
この背景から推察すると、(1)度重なる金融危機を経て生産性が高い金融・保険業などへの労働力移動が進展せず、同時に(2)勃興時の情報通信業へ十分な投資資金が投入されなかったこと、(3)アジア諸国を中心とした貿易市場の競争激化で製造業の生産性改善が鈍ったこと、(4)原発事故の影響を受けて電気・ガス産業で生産性が低下したこと、(5)規制業種でもある保健衛生産業において生産性が低下したこと。これら五つの要因が、日本の成長を抑制したと振り返ることができそうだ。
つまり、日本のTFP成長率を抑制した正体は、産業政策の不在よりも、金融危機や原発事故に対する政策の失敗が大きいといえる。今後の政策対応としては、上述したような危機の再発防止に軸足を置いた上で、保健衛生業に市場原理を働かせることが求められよう。
(みずほ証券 エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)