「不機嫌な上司」が、
職場に危機をもたらす
第3のコツは、「仕事をすれば、トラブルは必然的に起きる」と腹をくくることです。そう腹をくくっておけば、部下がトラブルを起こしたときにも、「不機嫌」になることなく、「平常心」で事態を受け止めることができるからです。
これは、マネージャーとしての「資質」を左右する、非常に重要なポイントです。トラブルを報告しにきた部下を責め立てるのが論外なのは言うまでもありませんが、そのときにわずかに「不機嫌」なそぶりを見せるだけでも、マネジメントに重大な問題が生じる結果を招くからです。
どういうことか? 誰でもトラブルを起こしてしまったときには、「責任問題になるのではないか?」「怒られるのではないか?」「見限られるのではないか?」などと不安や恐怖心をもちながら、勇気を出して上司に報告をするものです。
それだけに、上司がほんの一瞬、「不機嫌」な表情を見せるだけでも、部下の心には強いインパクトをもたらします。その後、上司が冷静に対処してくれたとしても、部下は、「あの上司は口には出さないけれども、内心では自分に対する評価を大きく下げているはずだ」などと思ってしまう。その結果、上司に対する恐怖心が芽生え、それ以降、トラブルを報告するのを躊躇してしまう恐れが高まるのです。
これは、非常に深刻な問題です。
どんなに誠実に仕事に取り組んでいても、トラブルは避けがたく発生するものです。重要なのは、トラブルの芽が小さいうちに組織的な対応をとること。ところが、部下がトラブルを隠そうとすることによって、水面下でトラブルはどんどん大きくなり、部下ひとりでは抱えきれなくなったときに、問題は噴出。組織に大打撃を与えるとともに、マネージャーの責任問題へと発展するわけです。
しかも、そのような経験をしたマネージャーは、何も言ってこない部下を見ながら、「何か、トラブルを隠してるのではないか?」などと疑心暗鬼になってくる。そんな「不機嫌」な上司に対して、部下はより一層、距離を置き始めるという悪循環に陥ってしまうのです。
トラブルは部下との
「関係強化」のチャンスである
だから、マネージャーは部下からのトラブル報告を、むしろ歓迎すべきなのです。
もっと言えば、「報告してくれて、ありがとう」と感謝するくらいでちょうどいい。とはいえ、それは、そう簡単なことではありません。マネージャーにとって、トラブル報告は常に突発的にもたらされるもの。誰だって、内心では「弱ったな……」「この忙しいときに……」などと思ってしまうのが普通なのです。
だからこそ、私は、日頃から「仕事をすれば、トラブルは必然的に起きる」と腹をくくっておくことが大切だと考えています。
そう腹の底から思っていれば、部下からトラブル報告を受けた瞬間に湧き起こるネガティブ感情をやりすごすことができるからです。むしろ、「トラブルが起きたということは、部下が仕事を頑張っている証拠だ」と思うことすらできる。そして、「不機嫌」になることなく、「平常心」でトラブル解決に向けて動き出すことができるわけです。
これができると、非常に大きな恩恵がもたらされます。
なぜなら、上司が自分のトラブルに「不機嫌」になることもなく、進んで解決してくれたことに、部下が自然と「感謝」の気持ちをもってくれるからです。
その意味で、部下のトラブルは、マネージャーにとって「腕の見せどころ」であり、内心で「よし、自分の出番だ」くらいに考えるべきことだと言えます。「雨降って地固まる」という言葉もあるとおり、トラブルは部下との関係強化の絶好の機会であり、ワクワクすべき出来事ですらあるのです。
しかも、それ以降、部下は「トラブルの芽」の段階から、安心して情報共有をしてくれるようになるに違いありません。その結果、マネージャーは、部下を信頼しながら日々の業務に向き合うことができるようになる。それは、マネージャーにとっても部下にとっても快適なことであるはず。こうして、みんなが「機嫌よく」仕事ができる環境が生み出されるわけです。
ここまで説明してきたように、マネージャーとして「求心力」を発揮できるようになるためには、部下やチームをマネジメントしようとする前に、まず、自分の「機嫌」をマネジメントする技術を身につける必要があります。これも、「人と組織を巧みに動かす」ために不可欠な「ディープ・スキル」なのです。
(本記事は『Deep Skill ディープ・スキル』(石川明・著)から抜粋・編集したものです)