業務時間中はすべて
「部下のための時間」と腹を決める
第2のコツは、「できるだけ”仕事”を手放す」ことです。
人間は誰しも、大量の仕事を抱え込んで時間に追われると、どうしても「不機嫌」になるものです。それを精神力で抑え込もうとしても無理があります。いえ、そんな努力をすれば、余計に「不機嫌」になるという悪循環に陥るだけでしょう。
若い頃は「実績」を出すために、なりふり構わず頑張ることが必要ですから、時には、ストレスのあまり「不機嫌」になることがあっても構わないと、私は思っています。決して褒められたことではありませんが、それも頑張っている証拠ですから、周囲の人々が大目にみるべきことだと思うのです。
しかし、マネージャーがそれではいけません。責任感の強い人ほど、仕事を抱え込みがちですが、その結果、「不機嫌」になっているようでは、”マネージャー失格”と言うほかありません。
正直に告白すると、私自身、そうなっていた時期があります。
オールアバウトを創業して一気に大勢の部下を抱えることになった頃、大量の仕事を抱え込んでいました。そんななか、何度も部下に相談を持ちかけられ、「自分の仕事」を中断されることにストレスを感じていたのです。努めて笑顔で対応していたつもりですが、おそらく「不機嫌さ」が滲み出てしまったときもあったはずです。
そのことに危機感を覚えた私は、あるときこう心に決めました。「業務時間中はすべて”部下のための時間”である」と。そして、「自分の仕事」は業務時間が終わってから、集中して処理することにしたのです。
できる限り「現場業務」は手放す
ただし、私の能力など知れています。あまり多くの仕事を抱え込んでしまうと、業務時間外という”限られた時間”で「自分の仕事」を処理しきれなくなります。
だから、できる限り「自分の仕事」を手放すことにしました。もちろん、何でもかんでも部下に仕事を押し付けるという意味ではありません。それでは、部下の不満が鬱積する結果を招き、事態は悪化するばかりです。
大事なのは、「マネージャーとメンバーの役割を明確化する」ことです。「現場の仕事」を担うのはメンバーの役割ですから、マネージャーは極力それに手を出さないほうがいい。マネージャーは、メンバーをサポートすることによって、チーム全体のパフォーマンスを最大化するという役割に徹するべきなのです。
ですから、それまでは、部下の仕事ぶりを見ていると、「自分だったらもっとうまくやれる」とつい手を出してしまっていましたが、その思いをぐっと堪えるようにしました。
そして、基本的な「現場業務」は部下に任せると腹をくくって、「自分の仕事」はマネージャーとして不可欠な領域に絞り込むようにしたのです。正直なところ、「現場業務」をすべて部下に任せることに不安もありましたが、それが杞憂であることを実感するのにたいして時間はかかりませんでした。
「業務時間中はすべて”部下のための時間”である」と腹を決めておけば、部下に声をかけられて「自分の仕事」を中断されても、「機嫌よく」対応することができます。その結果、部下も安心して私に「報連相」をしてくれるようになり、コミュニケーションの「量」が増えるとともに、その「質」も高まっていきました。
しかも、メンバーの多くは、「重要な仕事を任せられた」ことを意気に感じ、それまで以上に熱意をもって仕事に取り組んでくれるようになります。それを、マネージャーである私が全面的にサポートすることによって、チーム全体がどんどん活性化していったのです。
マネージャーが「自分の成果」に
こだわるのは本末転倒
このように、マネージャーは「メンバーとの役割分担を明確にする」ことが大切です。「現場の仕事」で成果を上げるのはメンバーであって、それをサポートするのがマネージャー本来の役割なのです。それさえ明確にできれば、自然と「自分の仕事」が絞り込まれていって、精神的な余裕が生まれてくるのです。
もちろん、プレイング・マネージャーは、自分も「成果」を上げるために、「現場の仕事」にも汗をかく必要があるでしょう。しかし、その場合であっても、与えられた最大の使命は、プレイヤーとして「成果」を上げることではなく、マネージャーとして「チーム全体の成果」を上げることであるはずです。
にもかかわらず、プレイング・マネージャーの多くは、自らがチームの先頭に立って成果を上げなければならない、と気負いがちです。しかし、「自分の成果」を上げるためにしゃかりきになって、メンバーのサポートが手薄になるようでは本末転倒。
さらに、プレイング・マネージャーが「圧倒的な成果」を打ち立てて、「どうだ?」と言わんばかりの態度を見せたりすれば、メンバーは白けるばかり。むしろ、そんなマネージャーに「威圧感」を抱き、より一層、声をかけづらくなるだけでしょう。
それよりも、マネージャー本来の役割を果たすために、「できるだけ”仕事”を手放す」ことによって、「機嫌よく」いることのほうがよほど大事。それが、チームとして「成果」を上げる最善の方法なのです。