CEの実現というビジョンは、技術開発というシーズだけで達成されるわけではない。社会をどう変え、価値提供をどう変えていくか、そのためにどういう技術を使い、どんな規格を押さえるかといったメゾ(中間)領域をデザインすることが重要である。

 VMSモデルによって製造業からライフサイクル産業への移行を図るうえでは、「モノ、情報、カネが循環する仕組みをつくる“循環プロバイダー”がキープレーヤーになる」。単独で循環プロバイダーの役割を担うのは難しいので、「適切なアライアンスを組み、さまざまな専門家集団を巻き込みながら、循環を企画、ビジネス化して、運営をオーケストレーションすることになるだろう」と語り、梅田氏は講演を終えた。

動脈で培った技術やシステムを
静脈に活かす

 9月21日の基調講演では、早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科 教授の小野田弘士氏が講師を務めた。「製造業におけるサステナブル・トランスフォーメーションの実現に向けたアプローチ」と題して、環境に配慮したものづくりの歴史を振り返りつつ、CEの実現に向け、取り組むべき課題を提示した。

 大量生産・大量消費・大量廃棄型社会からの転換については1990年代から議論が積み重ねられており、21世紀初頭には循環型経済社会のイメージが専門家の間でほぼ共有されていた。「CEの概念は、見方によっては新しくない。過去20年で一番変わったのはデジタル技術の進化であり、それを議論に織り込むことが前提となった」(小野田氏)

製造業の未来:SX時代における「日本のものづくり」を考える【イベントリポート】早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科
教授 小野田弘士 氏

早稲田大学大学院 理工学研究科 博士後期課程修了。博士(工学)。早稲田大学 環境総合研究センター 講師、同准教授などを経て、2017年より現職。2022年より早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科長|教授(現職)。著書に『失敗から学ぶ「早稲田式」地域エネルギービジネス』(エネルギーフォーラム、2017年)など。

 たとえば、いまから20年ほど前、小野田氏は特殊ICタグを活用したポンプのライフサイクル管理プロジェクトに携わったことがある。いまならICタグの代わりにIoTやAIなどを活用するところだろうが、デジタル技術を使ったとしても、ライフサイクル管理のボトルネックは当時と変わらない。それは、「売り切り型の製品の場合、使用済み製品を回収した時点で、どんな使われ方をしていたかという情報を取得できないと、リユース可能なのか、リサイクルするしかないのかがわからないし、環境配慮設計にフィードバックできない」ということだ。

 売り切り型の製品では使用時の情報をモニタリングしたり、回収時に正確な情報を取得したりできないので、「ビジネスモデルを変えないとCEの実現は難しい。そこは20年前と変わっていない」。したがって、売り切り型からリース・レンタル、サブスクリプション、シェアリングなどへビジネスモデル転換を図れるかが大きなポイントとなる。

 CE実現に向けた段階的アプローチとして、小野田氏は以前から議論されてきた「動静脈連携」の重要性をあらためて指摘した。センシングやロボティクスなど動脈(製品の設計・生産・販売)で培った技術やシステムを静脈(使用済み製品の回収、再生・再利用や廃棄)にも導入し、自社製品の動静脈連携を検討すべきだと小野田氏は語る。そして、ビジネスモデル転換や動静脈連携を図るうえでは、さまざまな制約のある既存事業ではなく、新規事業でトライアルするのが現実的なアプローチではないかと提唱する。

 そうしたアプローチを取った事例を小野田氏は示した。たとえば、同氏は労働力不足が深刻化する廃棄物処理・リサイクル分野で、画像認識AIやロボットを使ってごみ選別の非接触化・自動化を実現する仕組みの開発を東京都などと連携しながら進め、産業として育てようとしている。

 また、埼玉県久喜市の南栗橋駅前の次世代街づくりプロジェクトでは、鉄道会社や住宅メーカー、商業施設ディベロッパーなどと早稲田大学大学院 小野田研究室が連携しており、既存のごみ収集車に適合した非接触ごみ自動投入システム、通信機能や自動搬送機能を備えたスマートごみ箱、コンテナを付け替えることで宅配荷物や廃棄物を輸送できる自走式モビリティの実証などが計画されている。

 小野田氏は、「社会的ニーズがあるところに必要なテクノロジーが供給されていない状況をどうにかしなければならない。また、メーカーは自社で供給している製品が最終的にどうなっているのかにもっと関心を持ってほしい」と語りかけた。