メガトレンドと価値観の変化をつかみ、
大胆なビジョンを描く
特別講演では、立教大学ビジネススクール 教授の田中道昭氏が、「製造業におけるメガトレンドとサステナブル・トランスフォーメーション」について語った。
製造業にとってのメガトレンドとして、田中氏はアンドリュー S.ウィンストン氏の著書『ビッグ・ピボット』を引用しながら、「もっと暑くなる」(気候変動問題)、「もっと足りなくなる」(資源問題)、「もはや隠せない」(不正問題)の3つのキーワードを挙げた。
この3つの潮流は、若い世代の価値観と呼応する。若者たちは、グリーンなビジネス、イノベーション、隠さない者を支持しており、だからこそ企業にはSXが求められている。そして田中氏は、メガテック企業であるGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック<現メタ・プラットフォームズ>、アップル、マイクロソフト)とテスラに共通する重要な行動様式として、「メガトレンドをつかむ」「価値観の変化をつかむ」「大胆なビジョンを描き、迅速に行動する」の3つを指摘した。
続いて同氏は、世界中の企業に大きな影響を与えているアップルとテスラのSX戦略を紹介した。アップルがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のシナリオを20年前倒しして、「2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラルを達成する」と公約したのは、いまから3年前の2020年であり、「アップルのサプライチェーンに属する企業だけでなく、その影響はあらゆる産業に及んだ」(田中氏)。
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。シカゴ大学MBA(経営学修士)。日米欧の金融機関にも長年勤務。テレビ東京『WBS』コメンテーター。著書に『GAFAM+テスラ 帝国の興亡 ビッグ・テック企業の未来はどうなるのか?』(翔泳社、2023年)など。
アップルCEOのティム・クック氏は2021年2月の株主総会で、「iPhoneは100%再生素材の使用に100%取り組む」と表明。2023年9月には同社初のカーボンニュートラルな製品として、新しいApple Watchのモデルを発表し、野心的な2030年目標の実現に向け大きく前進した。
こうしたアップルの動きから認識すべきは、「CEは遠い未来のビジョンではなく、会社の芯から地球環境に向き合うことを求められている」ことだと、田中氏は説く。
一方、テスラは一般的にEV(電気自動車)メーカーととらえられているが、その本質は太陽光発電でエネルギーをつくり、蓄電池で蓄え、EVで使うという「クリーンエネルギーのエコシステムの会社であり、それゆえに高く評価されている」(田中氏)。
同社は2006年の「マスタープラン」、2016年の「マスタープラン2」に続き、2023年4月に「マスタープラン3」を発表。電化、持続可能な発電・蓄電を通して、持続可能なグローバルエネルギー経済を実現するための道筋を具体的に提示した。
まさにメガトレンドと価値観の変化をとらえつつ、大胆なビジョンの有言実行で「世の中がどうあるべきかという自社の価値観によって、大きな変化を牽引している」のがテスラであり、「皆さんも事業を通じてどのような社会課題と向き合うべきかを問い直してほしい」と田中氏は結んだ。