解決法は「副担任」制か、専門職の設置
では、どうすればよいか。過剰になっている負荷の軽減の一つの方法は、管理職の補完的な役割を担う業務を、正式な役割として組織の中に組み込むことである。管理職のリーダーと管理職のサブリーダーの2人体制にして、互いに協力し合って現行の管理職の機能の役割分担を行うのである。
小中学校などで、クラスの運営を担任と副担任にさせるのと同じだ。過去の日本企業のように誰かにボランティア的にサブリーダーの役割を補完してもらうのではなく、仕事として給料を払って補完し合うのである。もちろん補完者の給与を上げることになるが、今の会社の状況ではそのくらいしなければ、管理職はパンクする。そして現状を放置すれば、ますます誰も管理職をやりたがらないから、今度は組織全体が機能不全となってしまう。
リーダーとサブリーダーのどちらが推進型でどちらが維持型を担うかは状況次第だが、基本的には、推進型が戦略策定をリードし、メンバーを各役割に当てはめ、指示をして、PDCAサイクルを回す役割となる。一方、維持型は、メンバー個々人の状況を把握し、組織内のあつれきを早期に発見し、関係性を修復する。そして推進型と維持型は常に情報交換をし、不即不離、かつ一心同体的に連動して組織を動かしていくのである。実際に「副課長」としてこれに近い役職を設置した会社もあるという。
また、組織の維持機能だけのためのプロフェッショナル専門職を設置して採用し、従業員20~30人に1人くらいの割合で維持機能に特化して担ってもらうという方法もある。今は会社に数人のカウンセラーがいるくらいだが、そのような人をたくさん採用し、現場に配置して、具体的な業務そのものにも精通してもらった上で維持型の仕事だけをしてもらうのである。
以前、社員50人ほどのIT系ベンチャー企業の社長から聞いた話では、組織の問題は人間関係に尽きるので、業務時間中に、さまざまな社員(主にエンジニア)と定期的に「お茶」して、悩みを聞いたり雑談したりして、「問題の芽をつぶす」ことを主な職務とする社員を雇っていると言っていた。
維持型の仕事は重要である。メンバーの心的状況を常に把握し、共通のビジョンや価値観が皆に浸透しているかを測る。そして、メンバー間のコミュニケーションの状況を見ながら、発生している誤解を取り除き、感情的な絆を作り上げ、組織内のコラボレーションを促進するのである。精神的に落ち込んだメンバーには、寄り添って話を聴き、一緒に対応策や今後のキャリアプランを考える――。このような仕事である。
ここしばらく、アメリカ的な価値観の影響が強くなってしまったため、戦略策定にたけた、頭のいい、格好いいリーダーがもてはやされることが多かった。そして、組織のほころびを目立たぬように補修する維持型の仕事は注目されなくなって、はっきり言えば軽んじられてきた。そういう人を出世させることもなかった。その結果、昔の日本の企業にはどこにでもいた維持型が激減してしまった。維持型はすでに絶滅危惧種である。
企業は、維持型の候補者を見つけて養成し、組織内に重点的に配置する、または外部からプロを採用することが急務になっている。さもないと組織が崩壊してしまう。
コストカットに慣れきった組織では、「そんな人を雇う余裕はない」と言われるかもしれない。しかし、リモートと出社とのハイブリッドを選び、大きなオフィスを引き払う企業も増えている。高い家賃が浮くわけだから、その分を原資として、「人に投資」するのは何ら問題ないはずである。