150インチのフィルム・ディスプレイへ

 「曲げられるディスプレイだって? 今度こそ、ホラじゃないのか? 本当だと言うなら、いま現在、壁紙のようにペラペラに曲げられるテレビが存在するというのか?」──と問われれば、答はもちろん「イエス」である。すでに技術は存在している。

 ソニーは2007年に2.5インチ角という小さなサイズだったが、フィルム状のディスプレイを試作している。それを150インチに拡大すれば、いま私の説明した世界が現出する。

ソニーの4.1インチ有機トランジスタ駆動フレキシブル有機ELディスプレイ
(2010年SIDで発表)
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 フィルム状の有機ELの場合、拡大するのも同じ技術でできる(サムスンは中小型の有機ELを55インチに大型化する際、別の方式に変えざるを得なかったが)。ただ、その大きさのフィルム状のディスプレイをつくる機械装置が現時点では存在しない、というだけのことである。いまは55インチをつくる装置もないので、装置メーカーもそれを開発している。

ロール・ツー・ロール
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 小さなフィルム・ディスプレイは試作した。だからそれをスケールアップして、巻き取れるような(ロール・ツー・ロール方式)有機ELフィルムをつくる技術と装置さえ開発すれば、150インチのテレビはできるのである。55インチの箱形の有機ELテレビを買うくらいなら、巻き取り式で、どこにでも掛けられる有機ELディスプレイがあれば、高くてもそちらを買いたくなるだろう。

日本勢に残された猶予は何年あるか?

 150インチのディスプレイが出てくると、その使い方も一変する。ディスプレイを巻いた状態で電車に乗り、出張先でプレゼンテーションに利用してもいい。タクシーにも持ち運べる。家族と旅行に行ったときでも、その日に撮ったビデオを大画面ですぐに見ることができる。スキーの映像であれば、150インチともなれば雪景色の中にいるような気持ちになれるだろう。ホテルが利用する場合には、廊下一面に掛ければ、その地域での花見や紅葉、雪景色などを宿泊客に見せるということもできるだろう。

 ただ、「基礎技術はある!」と言っても、いざ量産するとなると、歩留まりであるとか、コストを考えていくと、まだ5~10年はかかると見ている。

 逆に言えば、有機ELの本命「150インチ・フィルムディスプレイ」が現われてくるまで、国内メーカーには「5~10年の時間的猶予がある」ということだ。つまり、いまから国内メーカーが「フィルム・ディスプレイ(ロール型)」にターゲットを絞り開発していきさえすれば、将来、市場が爆発するこの分野で「逆転する時間・チャンス」が残されている、ということである。

 しかも、この市場はメーカーにとって、あまりに巨大で魅力的なのだ。