日本と欧州のシンクロニシティ
共通する社会的背景

 欧州と同じように、日本でもディスカウント路線の食品スーパーが好調だ。2023年度上半期に連結売上高と営業利益が過去最高を更新したイオングループが筆頭格である。日本版HDSの西の雄である業務スーパー(神戸物産)が快進撃を続けるほか、東の雄のオーケーは23年10月に銀座店(ユニクロ跡地)を開業して話題を呼んだ。

 米国やアジア地域でも、格安スーパーが業績を伸ばすケースは散見されるが、HDSの好調ぶりは欧州と日本が突出している印象だ。欧州と日本で同時に共通の現象が起こる「シンクロニシティ(共時性)」の背景には、何があるのか。

 もちろん、ウクライナ危機を端緒とした世界的な食品インフレの影響も大きいが、HDSが躍進する欧州と日本に共通する社会背景として、筆者は高齢者と若年層の2つの世代内における経済格差の拡大に注目している。日本が世界の主要国の中で最も高齢化が進行していることは周知の事実だが、独国、フランス(仏国)、英国を含む欧州諸国も、トップランナーの日本を追う高齢化の第2集団である。

 欧州には社会福祉による公的な所得再分配が機能している国もあるが、基本的に労働所得が途絶える高齢者(65歳超)が増えると、社会全体のインフレ耐性が低下することは不可避である。一方で、高齢者の中には株価上昇などによる金融所得の恩恵を受ける一部の富裕層が存在するため、インフレ耐性に乏しい年金生活者との世代内ギャップは拡大していく。 これを背景に、日本においては、HDS型の食品スーパーの好調と同時に、大手百貨店の食品催事などが過去最高の売上高を記録するといった二極化現象が現出している。

 高齢者の貧困層が消費市場全体に与える影響は大きい。図表2では、日本の家計消費における年齢層別のエンゲル係数(食品支出が支出全体に占める割合)の過去20年の変化を示した。

 日本では2000年代以降、エンゲル係数が上昇傾向にあるが、この背景として、最近の食品インフレの影響よりも、エンゲル係数が高止まりする年金生活世帯の数が急増した影響が大きかった(筆者分析)。

 なお、高齢化は食品小売業における人手不足にも直結しており、商品陳列や接客の要員を省人化するHDSが欧州や日本で店舗数を増やしやすい要因にもなっている。