あらゆる階層で進行する
経済格差の拡大

 次に、若年層における所得格差の拡大である。若者の失業率の高さが社会問題化して久しい欧州はもちろんだが、日本においても、非正規雇用の増加などに伴う若者の格差拡大は深刻化している。

 2022年の内閣府発表によると、若年層(25~34歳)におけるジニ係数(所得格差を表す指標)は上昇傾向にあり(その他の世代ではジニ係数は若干低下)、少子化などの社会問題を深刻化させている。

 再び前掲の図表2を見ると、エンゲル係数が上昇傾向にある他の世代をよそに、一番左の29歳以下の世帯のエンゲル係数が低下していたことが分かる。若年層のエンゲル係数の低下を詳しく分析すると、所得の改善によって食品支出の比率が薄まるといったポジティブな内容ではなく、水道光熱費や家賃の上昇を補うために食費を切り詰める必要に迫られた結果であることが分かる。

 高齢者と若者に共通する問題は、それぞれの世代内における格差拡大と分断である。

 金融主導の資産インフレが続く限りにおいて、金融資産を所持する富裕層と労働所得に頼みを置く中間層以下との間の経済格差が不可逆的に拡大していくことは、仏国の経済学者トマ・ピケティが唱えた「r>g」という不等式が予見した通りである(rは資本収益率、gは経済成長率)。

 若年層においても、いわゆるZ世代(1999~2015年生まれ)の中には、恵まれた家庭環境で育ち、初等教育でSDGsを教え込まれてエシカル消費に勤しむ者と、非正規雇用で将来に希望を見出せない若者の間には、越えがたい分断が生じつつある。

 なお、欧州におけるHDS躍進の背景として、移民の存在にも触れておく必要がある。

 日本よりも早く高齢化社会の到来が予測されていた独国では、早くから積極的な移民政策が採られていた。また、EUからの脱退を決めた英国でさえも、その狙い通りにEU域内からの移民は抑止できたが、近年は非EU地域(インド、ウクライナ、香港など)からの移民が大量に流入している。

 全人口における移民比率が低い日本でも、コロナ禍での入国制限が解除されて以降は再び堰を切ったように在留外国人数が増加に転じた。生活苦に陥る高齢者や若者に加えて、在留外国人という新たな潜在顧客の存在(特に都市部)を背景に、HDSは今後も欧州や日本で勢力を拡大していく可能性が高い。

(フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター 企業価値戦略部長 山手剛人)