共創を現場任せにしない 日建設計が進める専門組織による「コラボのデザイン」とは

日建設計は、東京スカイツリー、東京駅八重洲口開発、渋谷スクランブルスクエアなど、名だたるランドマークや都市開発プロジェクトを数多く手掛ける世界有数の設計会社だ。2023年4月、同社は東京オフィスに共創の場「PYNT(ピント)」を開設。異質な知恵を融合し、共創によるイノベーションの場として活用していくという。社員の4割以上を1級建築士が占める専門家集団は、共創からどのように変革を生み出すのか。PYNTの企画・運営に携わる同社イノベーションデザインセンターの石川貴之氏と吉備友理恵氏に聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)

新規事業の種を探す、伴走する、発芽させる

──さまざまな企業で、社外と共創しながらイノベーションを進める組織が生まれています。日建設計のイノベーションデザインセンターの特色はどのようなものでしょうか。

吉備 コラボレーションを専業とする組織だという点でしょうか。センターそのものでは顧客や案件を持っていません。イノベーションの種となるアイデアを社内から拾い上げ、共創できそうな社内外の人や組織につないだ上で、それぞれのプロジェクトを支援、伴走する。イノベーションを加速することに特化した組織といえます。名称に「デザイン」を入れたのも、自分たちが「イノベーション」そのものを起こす主体ではなく、イノベーションを起こす仕組みや関係をデザインする組織であることを明確にしたかったからです。

石川 次世代インフラやカーボンニュートラル、地方創生……と、日建設計のこれまでの実績や強みを生かせるトピックスは多岐にわたります。これらを具体的なプロジェクトに埋め込み、新たな事業領域の開拓に向けて共創を促すのが私たちの役割です。今までは、外部から仕事を受注し、要件に応じて仕事をする──という「請負」スタイルが中心でしたが、「何をやるか」「どうやるか」というフワフワした状況から目的を見いだし、外部と一緒に企画提案をしていこうというわけです。

共創を現場任せにしない 日建設計が進める専門組織による「コラボのデザイン」とは©NIKKEN SEKKEI LTD
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──こうした社会課題の解決は、これまでの受注ベースのビジネスでも取り組む方法はあると思います。わざわざ専門組織を立ち上げたのはなぜでしょうか。

石川 日建設計は、建築設計事務所からスタートして都市開発、都市基盤整備など、まちづくりの領域にビジネスを拡大してきた会社です。今は世界中で大きなプロジェクトを手掛けていて、そういう意味では裾野は非常に広がっています。でも、言い方を変えると、それを続けても「建築設計」という高い峰の裾野が広がるだけで、「富士山型」の構造そのものは変わらない。これまではそれで良かったのですが、建築・都市が抱える課題は非常に複雑化していますから、そうした課題に組織として対応するためには、提供するサービスやソリューションが峰のごとく連なる「八ヶ岳型」の組織構造へと変化・進化しなくてはいけません。

 その課題認識から、2016年に「峰コンペ」という新規事業提案制度が創設されました。日建設計という企業の枠を超え、都市の課題にアプローチし、新たなビジネスを起こす発想を集めようとしたのです。ところが、専門分化が進んだ組織では、その枠を超えるような発想は生まれにくく、既存事業の延長線上にある課題解決型の企画ばかりが集まりました。この反省を踏まえて発足したのがイノベーションデザインセンターです。

吉備 峰コンペは、「Wedia Contest」という名称にリニューアルし、「共創につながるアイデア」を募るコンテストであることを明確にしました。「Wedia」という言葉は造語で、アイデアを個人のものから皆のものに変えたい(I→We)という期待を込めました。採択された発案者には当センターが伴走してプロジェクト化を支援します。

──具体的にはどのような支援をするのでしょうか。

吉備 主に人、お金、時間の三つです。人の面では、経営層のメンターを必ず付けるほか、必要に応じて社内外から共創のパートナーを探してきてつながりをコーディネートします。安心してプロジェクトを進められるように予算を付け、プロジェクトに費やす時間も業務として公認します。