【プロが陥るワナ2】
「こんなことにも使えます」を訴求する
プロが陥るワナの2つ目は、「こんなことにも使えます」という視点です。商品を企画する時、できるだけ多くのお客さんに買ってもらいたいと考えます。それ自体は自然なことですが、ここで対象顧客を無理に広げようとすると、話がおかしいことになります。
たとえば、「この商品は、30代の男性が使うものだけど、この機能は、女子高生にも使えるから、それを訴求して女子高生に買ってもらおう」というような考え方がされることがあります。こういう考え方で商品が企画されていることが結構あります。
ぼくが仕事をしている出版業界でも本当によくある話です。ぼくは作家活動をしつつ、出版社を経営しています。編集会議に何回も出て、一緒に本づくりを考えてきましたが、そこでとても不思議な会話がされるのです。
たとえば、男性向けに作った本でも、「2章の話は女性にも響く内容だから、女性にも読んでもらえるようにしよう」と編集会議で話されることは珍しくありません。出版業界では「すそ野を広げたい」という言い回しで「他にも買ってくれる人を探そう」と考えますが、この発想はかなり危ないです。
作っている本人は、「こんなことにも使える」「あの人たちにも役立つ」とっていますが、それは作り手が勝手に考えていることです。「こんなことにも使える」とは、「それはメインの使い方じゃないけど、いろいろ考えたらそういう工夫もできる」という意味ですね。
お客さんからすれば、「あなたががんばって工夫をしたら、そういう使い方もできるかもしれません」「本当はあなた向けじゃないけど、部分的にあなたにも使えるから買って」と言われているようなものなのです。
自分がお客さんだったら、そんな商品買いますか? 絶対に買いませんよね。部分的にしか使えない商品なんか買わず、全部を使える商品を買うに決まっています。
提供者は「こんなことにも使えて便利」というつもりでリストアップしていますが、消費者からすれば「特にいらないもの」です。つまり、企業・消費者のお互いにとって「ないよりはあった方がいいもの」なんですね。
「これがないのと、あるのとではどちらがいいですか?」と聞かれたら、消費者は「あった方がいい」と答えます。たしかに「あった方がいい」要素ではあるかもしれません。
ですが、「では、その要素があるので、買ってください」と迫られたら、多の人が「いえ、いらないです」と答えるでしょう。「ないよりはある方がいい」というのは、「なくてもいい」、つまり「買わない」ということなのです。
以前、パソコンを買いに家電量販店に行きました。そこで、各メーカーのパソコンを前に“ウリ文句”を店員さんから聞いていました。
「このパソコンは、動画の編集がサクサクできるのがウリです」
「このパソコンのウリは、デザインです」
「この会社は、サポートセンターの営業時間が長いです」
などいろんな“ウリ文句”を聞きました。たしかに、「映像の編集がサクサクできるのと、そうでないのとでは、どちらがいいでしょうか?」と聞かれたら、「サクサクできる方がいい」と答えます。「デザインがカッコいい方がいい」「サポートセンターの営業時間が長い方がいい」と答えます。でも、だからといって、それを決め手として買いはしないのです。