この点については、投資家の瀧本哲史さんの著書『僕は君たちに武器を配りたい』(2013)においても、労働市場における人材が「コモディティ化」(2*)しているという指摘があります。

(2*)…コモディティ化とは「市場参入時に、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること」。(https://www.dm-insight.jp/words/words-131/

 コモディティ化とは、似たり寄ったりな状態のことをいいますが、グロービスによれば〈画一的で個性のない人材はコモディティ人材と呼ばれ、テクノロジーの進化により真っ先にAIに仕事を奪われることとなる。そうならないためにも、話題のスキルよりも次の時代に求められるスキルを先読みし、付加価値をつけることが重要である〉と説明されています(3*)。

会社に必要とされる
スペシャリティ人材

 瀧本さんは、コモディティ化した人材は徹底的に買い叩かれて、「安いことが売り」の人材になってしまうことを危惧します。すなわち、英語力やITスキルあるいは会計の知識を身につけたとしても、会社からすると、一定のレベルを満たしていれば「誰でも同じ」という状態です。

〈決められた時間に出社して、決められた仕事を決められた手順で行い(4*)、あらかじめ予定していた成果を上げてくれる人、そういう人であれば、その中でいちばんコスト(給料)が安い人だけが求められるのが、現在のグローバル資本主義経済システム〉であり、経営者の関心は、代替可能なコモディティ人材に報いることではなく、コモディティ人材の給料をどこまで下げられるかに向かうとしています。コモディティ人材が辞めていなくなったとしても、会社としては痛くもかゆくもなく、いくらでも代わりがいるからです。

 そして、〈どうすればそのようなコモディティ化の潮流から、逃れることができるのだろうか。それには縷々述べてきたように、人より勉強するとか、スキルや資格を身につけるといった努力は意味をなさない。答えは、「スペシャリティ(specialty)」になることだ〉と導き出しました。

(4*)…会社のなかに無意味な仕事があふれかえっている現実については、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ:クソどうでもいい仕事の理論』(2020)が詳しい。