一方、企業の設備投資額は、名目ベースでは前年同期比+2.0%の伸びに留まっている。つまり、設備投資額自体は増加しているものの、それがコストの上昇に追い付いておらず、実際に投じた金額ほど既存設備の更新や新規設備の導入が進んでいないということだ。

 設備投資の回復の足かせとなっているのが、人件費の増加や物価上昇に伴う投資コストの上昇である。特に影響が大きいのは中小企業だ。さらに、業績が堅調であっても、設備投資に慎重な企業もある。円安による為替差益への依存度が大きい企業だ。今の水準の円安がどこまで続くかは不透明なので、大規模な設備投資に踏み切りにくくなっている。

 政府が11月上旬に取りまとめた経済対策では、エネルギー補助金や定額減税といった家計負担の軽減策が注目を集めている。実は家計だけではなく、企業に対しても、省エネ化やイノベーションの促進、中小企業の生産性向上など、さまざまな目的で設備投資の支援策が盛り込まれている。

 ただし、支援策が多岐にわたるため、利用可能な補助金や優遇税制を認識できない企業は多い。さらに、支援を受けるための条件や手続きの複雑さから、制度の利用を断念する企業も出るだろう。設備投資を促進するためには、企業への情報提供の強化、支援条件や手続きの簡素化などを通じて、補助金や優遇税制の利便性を高めることが重要である。

(日本総合研究所 調査部 副主任研究員 村瀬拓人)