自分本位になるのではなく
他者視点で考える
だからこそ、野球とサッカーを比較すると、柔軟な「サッカー型組織」の方が現代ビジネスにマッチするのだ。
サッカー型組織で選手たちが発揮する自律的なリーダーシップは、経営学で「シェアード・リーダーシップ」と呼ばれるものに近い。
入山氏が2019年に上梓した『世界標準の経営理論』によると、シェアード・リーダーシップとは「グループの中で特定の一人だけが指導力を発揮するのではなく、それぞれのメンバーがリーダーのように振る舞う」という形のリーダーシップである。
このリーダーシップが認められた組織では、メンバーそれぞれがフラットな関係となり、自律的に行動してお互いに影響を及ぼし合うことができる。また、メンバー全員が当事者意識を持ち、積極的に意見交換を行うようになる。
いわば、組織の各メンバーが「指示待ち」にならず、チーム全体の業務を「自分事」として捉えているというわけだ。入山氏によると、マッキンゼー・アンド・カンパニーやGoogleの日本法人など、日本のトップ企業ではこうした体制が整っているという。
では、どうすればシェアード・リーダーシップが機能する組織をつくれるのだろうか。そのヒントこそ『アオアシ』にある。
同作品は「敵を抜き去ってシュートを決める」といったサッカー漫画におなじみのシーンだけでなく、「プレーヤーの心理描写」「頭を使って考えているシーンの描写」などの奥深い表現に力を入れている。
その中で、主人公のアシトが「自分があいつだったら、俺にどうしてほしいだろう?」と、チームメイトに求められるプレーについて自問自答する場面がしばしばある。「自分本位にならず他者視点になっている」わけだ。
この点について、入山氏は「『自分が自分が』となるのではなく、アシトのように『相手が自分に何を望むか』を考える。このことが自律的な組織にとって重要になります」と力説する。
ビジネスに置き換えると、トップダウン型組織のメンバーは「上司に指示された仕事を忠実にこなすこと」だけを重視し、直属の上司からの評価を意識しがちになるかもしれない。
一方、そこから視野を広げて「同僚は自分に何をしてほしいだろう?」と自問自答できる人は、どうだろうか。目の前の仕事をこなすだけでなく「組織に貢献する」という大きな視点で仕事を捉えられているはずだ。
そうした人々が集まると、メンバーそれぞれがフラットな関係となり、自律的に行動できる組織を築くことができる。シェアード・リーダーシップが機能する組織をつくるには、裁量権の拡大に加えて「他者の立場を想像すること」が重要になるというわけだ。