漫画インベスターZ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第38回は、パッシブ運用か?アクティブ運用か?永遠の論争を取り上げる。

「敗者のゲーム」と見えざる手

 桂蔭学園投資部の藤田美雪と町田倫子はメンバーのひとり、久保田さくらの自宅を訪れる。さくらの母は女性活用が遅れる日本の実態を生々しく語る。彼女たちは株式投資を「経営に1票投じること」と位置づけ、価値観の合わない企業に投資しない決意を固める。

 市場平均並みの収益を得るパッシブ(インデックス)運用か、平均以上のリターンを狙うアクティブ運用か。古くからあるこの論争は今も続いている。

 強固なパッシブ信奉者に聞けば、チャールズ・エリスが歴史的名著『敗者のゲーム』を書いた1975年の時点で論争は決着済みと答えるだろう。アクティブ運用で市場に勝ち続けるのは至難の業で、「勝てるファンド」を事前に見抜くことも難しい。コストでも優位なインデックス運用が最適の選択というわけだ。

『敗者のゲーム』は株式投資をアマチュアレベルのテニスに例える。素晴らしいプレーをした者が勝つプロの試合と違って、投資はミスをした方が負けるのが「敗者のゲーム」だという。『インベスターZ』の作中、投資部主将の神代圭介がテニスをプレーするのはこの比喩へのオマージュなのだろう。

 もっとも、インデックス運用には大きな問題がある。桂蔭学園投資部のメンバーが志す「1票を投じる」効果がなくなってしまうことだ。

 良い企業が買われ、ダメな企業が売られることで、市場の評価=株価には差がつく。株価が上がれば資金調達やM&A(合併・買収)で有利になり、株価が下がれば不利になる。その結果、長い目でみればヒト・モノ・カネが良いビジネスに集まる。

 インデックス運用にはこの市場のメカニズム、いわゆる「見えざる手」を弱める側面がある。日銀による巨額のETF(上場投資信託)買い入れが「市場を歪める」と強く批判されたのは、このためだ。

永遠の論争の結論は?

漫画インベスターZ 5巻P73『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 現実には市場による選別の力は働いている。すべての投資家がインデックス運用を選ぶわけではないからだ。だが、「見えざる手」が機能し続けるためには一定の割合のアクティブ運用が必要なわけで、それは健全な市場を維持するためのコストとも言える。

 そのコストはアクティブ運用の投資家が担っており、インデックス運用の投資家はそれに「タダ乗り(フリーライド)」している。

 では、インデックス運用の投資家はタダ乗りに後ろめたさを感じる必要はあるかと言えば、そんな必要はないだろう。アクティブ運用を選ぶ人を突き動かしているのは、公共心ではなく、より良いリターンを求める「欲」にすぎない。この欲も、見えざる手を機能させる私欲のひとつだと考えれば良いだけだ。

 インデックス運用も進化している。たとえばESG(環境・社会・ガバナンス)投資の価値観をベースとした株価指数といったバージョンアップはそうした動きのひとつだ。

 クレバーさと低コストを求めるインデックス運用、それを超えるプラスαを求めるアクティブ運用。どちらを選ぶか、論争は今後も続くだろうが、投資家は単に自分が納得できる方が選べばよい。それぞれの欲を包み込めるほど、マーケットの懐は深い。

漫画インベスターZ 5巻P74『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 5巻P75『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク