自分ひとりで食べていくためのリテラシーはどう育つか

山口氏

山口 高度経済成長が終わり、会社に人生を捧げる「社畜」が否定され、特定のオフィスを持たない「ノマド」という働き方が理想とされる今の社会では、僕は誰もが好きなことをやるべきだと思っています。

 とはいえ、好きなことをやるには、食べていくための「土台」は必要です。自分の価値や信用をお金に換えるという知識があるだけで、ずいぶん生活がしやすくなるのではないでしょうか。

出口 僕も、ひとりで食べていくための知恵は大事だと思いますね。大人になるということは、家を出て3度の食事を自分で食べられるようになることです。世界の先進国を見ると、大学を出た子どもが親と同居する日本のような国はほぼ皆無です。

 親が子どもを、たとえば「正社員になれなくてかわいそうだから」と家に置かずにさっさと追い出せば、ひとりで食べるための知恵はおのずと身につくと思いますよ。お腹が減ったら、みんな必死に考えてお金を稼ごうとするわけですから。もちろん、ご両親の体が弱いなど、何か特別な事情がある場合は別ですが。

山口 おっしゃる通りですが、僕はもう少し過保護な考え方をしています。どうすればひとりで食べていけるようになるか。そのためのカリキュラムを、この本で用意してあげたいと思ったのです。

 自分自身を振り返ってみれば、常にチャレンジをして、自分でサバイバビリティーを身につける生き方をしてきました。でも、すべての人がそういう生き方をできるわけではありません。僕が気に入っているクリエイターや役者のなかには、自分の才能に対して“ゴッホ”的な人が数多くいます。つまり、才能をお金に換え、継続させる土台がない。だからこそ、リテラシーを身につけるお手伝いがしたいと思ったのです。

出口 役者さんやクリエイターもそうですが、僕はNPOにもファイナンスの知識が必要だと思いますね。日本では、NPOや社会奉仕は善意でするものだから、無報酬が当たり前だという誤った考え方をする人が多すぎるという問題があります。自分たちがやりたいことを実現させるためにNPOを選ぶか株式会社を選ぶかというのは、単なる手段の違いです。どちらの組織もきちんとファイナンスをして、そこで働く人が食べていけるだけの報酬を産み出せない限り、その組織は永続するはずがありません。そのためには、山口さんがおっしゃるような、金融の知識やマネタイズする方法がないとダメですよね。

山口 それはすごく大事なことだと思います。