では、聴かれた経験がない人が、聴くことの「おいしさ」がわかる瞬間というのはあるのでしょうか。これは何とか過去の経験の中から、恩師や上司にじっくり話を聞いてもらったことで良かったという記憶を思い出してもらうか、もう一度じっくり話を聞いてもらう経験をしてもらうかしかないと思います。

もう一度経験していただくには、エールのようなサービスやコーチングを通じて、プロの聴き手に話を聴いてもらうという方法があります。また、企業なら人事部の方などが先に話を聴かれる体験をし、コーチングの資格やキャリアカウンセラーの勉強をして聴き方を身に付けられれば、次はその人たちが社内の1on1の指導をするなどして、少しずつ聴くことの姿勢を社内に広めていくことができます。

熱心な企業では、管理職研修の1つのカリキュラムとして「聴くこと」の研修も取り入れて、何度も定期的に繰り返しているようです。でも実際には、いきなり1回の研修でスタートしてみるというところが多くて、皆さん苦戦されているのではないでしょうか。

まずは話を聴ける人を外部からでも招いて、管理職の人たちにじっくり「聴いてもらう」という経験をしてもらうのが良いのではないかと思います。知らない料理を試食して、おいしさを知った上でレシピを教えてもらい、少し調理実習もしてみる、というのと同様に、1on1で聴くことを取り入れるのであれば、初めの経験はどこかから持ってくることをおすすめします。


成熟企業の1on1の始め方について考察してきた今回に続き、次回は、スタートアップが組織づくりの過程で初めて1on1を取り入れる際に気を付けるべき点や、ベンチャー創業者にとっての「聴く力」の意味などについて解説します。