動機を育むには「話を聴かれて自分を表現する機会」が必要
内発的動機を本人が持てるようにするには、何が自分の動機の根源なのかに気づく必要があります。起業家のような人たちの中には、もともと自分の内発的動機の根源がわかっている人が多いのですが、これは、現在までの人生のどこかでじっくり話を聴かれて、自分を表現する機会があったからではないかと思います。しかし多くの普通の人にとっては、そうした動機を育む機会をあまり得られません。
特に、これまで学業や仕事をがんばってきた方は、自分の動機や快・不快は脇へ置いて、言われたことをきちんとやることにまい進してこられた方が多い傾向にあります。こうした方は、「自分が持つ内なる動機が実はわからない」ということもよくあります。そこでじっくり聴かれる機会があって初めて、内なる動機が言葉になる。言葉になると自分で自覚ができ、再現性が持てるようになります。
いつもやる気が出ないという人でも、何かしら「これさえ勝手にさせてくれればモチベーションが上がる」ということがあるはず。自由にしたい部分は人によって異なるでしょう。仕事のやり方の自由かもしれないし、場所の自由かもしれないし、時間の自由かもしれない。時間にしても、深夜に働けることがうれしいという人もいれば、働くのは日中がいいけれども好きなときに休憩できるのがいいという人もいる。あるいは、時間はむしろ決めてほしいけれども、場所はその時の気分でカフェに行ったり家でやったり、山や海辺の方がモチベーションが上がるという人もいます。
そういった動機の源になることが何なのかは、本人であっても「聴かれる」体験がないとなかなか自覚できないことなのではないかと思います。
「ちょっとしたワガママ」を仕事に一さじ入れることはイノベーションにつながる
先ほど「傾聴し、他者が自分のやり方で振る舞うことを許容する」「内面にある動機付けの源を育む」ことが、内発的動機によって仕事を自律的に進めることにつながるとお話ししました。この「仕事をより主体的に、自分らしくやるための考え方」は「ジョブクラフティング」という研究テーマとして、最近取り上げられるようになっています。比較的新しく、まださまざまな見解がある領域なのですが、その中でも私が大変わかりやすかった定義と整理は次のとおりです。
ジョブクラフティングとは、仕事に自分らしさを「一さじ」入れること。そのとき、どこに変化を加えるのかには、3つのパターンがあります。1つ目は、「業務」のやり方で自分の味付けをする方法。2つ目は、誰とやるのかなど「関係性」で味付けをする方法。3つ目はこの仕事にどういう意味があるのかといった意味付け、「認知」の部分で自分らしさを加える方法です。