日本のIPOを「小粒IPO」として批判する声もありますが、こうした10年の足かせが機能して、スタートアップのIPOを急がせる仕組みになっていて、それが「小粒IPO」を引き出している事情もあるのです。会社としてはもう少し未上場で頑張りたいと思っても、それをさせない仕組みとしてSOが働いてしまう。
5か年計画では、SO制度を変えるというプランの1つとして、税制適格SOの行使期間を10年から15年にするということが挙げられています。これはとてもよい変化だと思います。今まではレイターステージになってくると実質、IPOまでの期限もどんどん迫っていましたが、5年の猶予ができることでもっと未上場のまま粘る会社が出てくるのではないかと思いますし、「小粒IPO」をしなくても、余裕を持って自分たちのベストなタイミングまで粘ることもできるのではないかと思います。
「保管委託要件」は未上場会社のSO行使を事実上阻んでいる
──税制適格SOの行使期限が延長されれば、法的な課題はクリアになるということですか。
他にも税制適格SOを規定するルールとして、「保管委託要件」というものがあります。あまり聞いたことのない言葉だと思いますし、私も最近まで知りませんでした。
会社が税制適格SOを発行した場合、行使後の株式は証券会社に管理保管を委託しなければならないという決まりがあります。社員がその株を売却した際にきちんと納税につなげるためのルールだと理解しています。
ただ、同時に株式の発行体である会社は税務署にも、法定調書を通して証券会社に提出したのと同じようなデータを提出しています。また、「新株予約権原簿」という株主名簿のSO版のような書類もあるので、保管委託要件がなくても正しい納税とそのチェックは行えるはずだと思います。
事実、米国にはこの要件はありません。米国では株式を売却した社員が確定申告をきちんと行い、申告していなければペナルティがある、ということで完結しています。今の日本では過度に発行体である会社や権利者である社員に情報を求めすぎているといえます。
この保管委託要件があることで、未上場で税制適格性を維持したままSOを株式に変えることが難しく、さらに換金手段もない。M&Aの際にも会社がSOを従業員に渡していると、「そのSOを行使して株を買ってもらえばいい」という話には基本的にならないのです。
手段がまったくないわけではありません。上場会社では「ほふり」、つまり証券の保管振替制度を用いて株式のデータをやり取りするので、上場すれば証券会社もSO行使後の株を受け入れることができ、保管委託要件を満たせます。ただ、未上場会社ではほふりにデータを載せることはできず、管理できません。では、未上場株で保管委託要件を満たすにはどうするのか。時代に逆行するのですが、株式総会を開いて会社の定款を変え、「株券発行会社」に移行して紙の株券を発行するという方法を採れば、法的な要件は満たせると考えられています。