よくないパターンはこうだ。起業家が、投資家からもらった投資契約を弁護士にそのまま転送して、弁護士からの赤入れ(修正提案)を投資家に返す。百戦錬磨の投資家は過去の交渉や投資家にとってのプライオリティが分かっているので、自分のこだわる点は赤入れを拒絶して、どうでもいい点については赤入れを受け入れる。「こっちは飲むからそっちは飲んでね、痛み分けで」といった具合だ。投資家から返ってきた契約書を見て起業家は、半分くらい自分の弁護士の主張が受け入れられてバランスが取れた感覚になって、そのままサインしてしまう。
これでは、契約文言は投資家の都合で決まっていくだけだ。スタートアップにとってあるべき姿とか、起業家にとって本当に重要な度合いは反映されない。
後悔しない資金調達をするためには、起業家は、契約交渉を弁護士に丸投げせずに、一定の時間をかけてそれぞれのツールを理解しないといけない。残念ながら、ここには近道がない。せめて遠回りしないためには、スタートアップ調達実務に長けていて、日本の市場感を理解しており、契約書を自分の言葉で理解するのを助けてくれる弁護士を見つけることだ。知り合いの起業家や投資家から専門家を紹介してもらおう。過去のビジネスでお世話になった信頼できる商業弁護士がいたとしても、スタートアップ実務の経験が豊富な弁護士を選び直すことを強くおすすめしたい。
加えて、投資家にも、起業家がツールキットを理解するのを助ける義務があると思っている。もちろん投資家と起業家は取引のテーブルの反対側に座っているので、起業家は投資家の言うことを全て鵜呑みにするのは危険だし、投資家もその前提で話す必要がある。しかしスタートアップ投資は、その後何年も続く関係の始まりだ。買収契約や提携契約など、世の中の他の種類の契約と比較しても、スタートアップの資金調達契約は、当事者双方の本質的な利害がより一致している種類の契約なのだ。その契約交渉は、投資家と起業家がこれから始まるパートナーシップを前にして、信頼関係を築くための非常によい機会だ。
最初の選択は「普通株」「優先株」「コンバーティブルエクイティ」
さて、投資契約の具体的なツールキットについて、いくつか例を挙げてみたい。まず基本的なところから、投資契約の大まかな種類について、その背景を含めてまとめてみる。
アーリーステージのスタートアップ投資の契約形態は、大きく分けて普通株、優先株、コンバーティブルエクイティがある。それぞれ会社のステージや目的に応じてプロコン(一長一短)がある。これについては専門書があるし、僕は弁護士ではないのでシンプルにまとめたい。