「(ゼロから採用するとなれば)1年では難しく、2〜3年の時間がかかる可能性もある。この土台があるのはすごく良いと感じたからこそ、リスクを取ろうと思いました」と西條氏は話す。
「PEファンドのように、黒字化した上で再上場をして、キャピタルゲインを得ようという思いからTOBを実施したわけではないんです。実際に今回の上場も(株式の)売り出しはゼロなんですよ。どちらかというと起業をして中長期的に大きな事業を作っていく上で、その過程をショートカットしたような感覚に近い。人とキャッシュフローを埋める事業基盤がある点が魅力的でした」(西條氏)
もっとも、すでに一度出来あがった組織を変えていくのには相当な労力がいる。当時のエキサイトの社員の平均年齢は36〜37歳。ベンチャー企業としては決して若いとは言えない。企業の体質を変えていく上で、既存の社員が柔軟に適応できるのか。
そこには不安もあったため「これは得意な人と一緒にやらなければ成功確率が下がる」と考え、サイバーエージェントで財務経理部門責任者を務めた経験を持つ石井氏らを招聘し、エキサイトの変革に取り組んだ。
当時のエキサイトは「メタボなのに栄養失調」
新体制がスタートした後、最初に着手したのが「社員との1on1ミーティング」だ。西條氏と石井氏を中心に新経営陣で分担しながら、ほぼ全社員と1on1のミーティングを実施した。
「1つ安心したのは、良い人が多かったことです。(新体制に対して)敵対的な人もおらず、好奇心があり、素直に学ぼうとする社員が多かった。もともとポータルサイトを手がけていたこともあって、大規模なサービスを運営する上での技術力があり、人としてもちゃんとしていました。社内を変革していく上で、その点はとても助かりました」(西條氏)
メンバーとの対話を進めながらエキサイトの“中”から会社の全体像を分析してみると、外部からは見えづらかった課題も見えてきた。特に西條氏が社内向けに伝えていたキーワードが2つあるという。
1つは「ガラパゴス化」だ。当時のエキサイトは「中を向いて事業をしていた側面が強かった」ため、積極的に外部の勉強会に参加したり、業界内で横のつながりを広げたりする文化が醸成されていなかった。そのため業界のトレンドや最先端のノウハウに対する感度も高くはなかった。
「真面目にはやっているけれど、もっと外にも目を向けてみよう。そんな取り組みを意図的にやりました。たとえばけんすう(nanapi創業者で現・アル代表取締役の古川健介氏)にメディアビジネスについて解説してもらうなど、知人を招いた勉強会などを開催してみたり。そういった人の話を聞くと刺激を受けますし、継続していると社員たちも外の情報に少しずつ目を向けるようになりました」(西條氏)