多言語展開における「スピード」と「コスト」の課題解消へ

「翻訳スピードが2倍になると、今まで1話分の翻訳版を制作するのに2週間かかっていたところが1週間に短縮されます。1つの事例としてイメージしているのは、Mantra Engineを使うことで週間連載に合わせて翻訳活動ができるようになること。日本語版と同時に他の言語でも出版できるようなスピード感です」

「そうなると海外のマンガファンはいち早く最新話の正規版を自分の言語で楽しむことができ、コンテンツホルダーは最速で多言語展開できるようになる。『翻訳版を発売するまでの間に海賊版が出回ってしまいお客さんを奪われる』ということもなくなります」(石渡氏)

これまでマンガの多言語展開においては「スピード」と「コスト」がネックになってきた。

石渡氏の話では単行本1冊を1つの言語に翻訳するだけで20〜30万円ほどかかるのが一般的であるため、本当に売れると判断されたものでなければなかなか翻訳版は制作されない。結果的に日本で単行本が出版された後、海外の出版社から声がかかってライセンス部門が対応するというケースが多く、海賊版が先に出回ってしまっている状況だ。

Mantra Engineを作るにあたって海外のユーザーに「なぜ海賊版を使っているのか」ヒアリンをしたところ、「読みたい作品が自分たちの言語でなかなか出てこないから」「そもそも自分たちの言語に対応したものがないから」という回答が最も多かったという。

漫画翻訳にかかるスピードやコストの課題を解決できれば、海賊版を撲滅させるきっかけになるかもしれない。集英社が展開する全世界対応のマンガアプリ「MANGA Plus」のような先行事例が出てきたのも大きいだろう。

「正規版がスピーディーに翻訳されて、リーズナブルな価格で楽しむことができるならお金を払って読みたいという反応も少なくありませんでした。個人的な見立てではありますが、ヒアリングをしている限りでは全体の30〜40%ほどの人は正規版があればそれを読んでくれるのではと考えています」(石渡氏)

海賊版の問題に限らず、海外へ販路を拡大したいと考える事業者が増えてきていると石渡氏は感じているそう。特に電子版であれば海外に直接的な販路を持っていなくても海外展開が可能であり、流通の状況に左右されることもない。新型コロナウイルスの影響なども相まってか、特にこの半年の間だけでも「多言語化への関心が高まっている印象」だという。