人と企業の関係性は、「採用」に始まる“インフロー”、採用した人の「配置」「評価」「報償」「育成」を行う“インターナルフロー”、そして出口である「退職」の“アウトフロー”からなると佐野氏は説明する。

これまでの採用から退職までのイメージ
これまでのHRマネジメントのイメージ 画像提供:Looper

経済成長期の日本においては、採用は新卒一括採用、インターナルフローは年功序列で、定年になったら退職するという「終身雇用」が成立していた。「この終身雇用というシステムにはいいところがたくさんあり、よくできた仕組みです。僕はこれ自体が否定されるものではないと思っています」と佐野氏はいう。ただ、90年代のバブル崩壊から、00年代のITバブル崩壊、リーマンショックと環境が変わり、「失われた10年」が20年、30年と長引くにつれ、事業戦略の方に変化が現れるようになったと指摘する。

「企業の事業戦略は評価や報酬制度など、人事をどうしていくかというインターナルフローの部分にも影響を与えるものですが、外部環境の不確実性が高まる中でそのあり方も変化し、柔軟性が求められています。ところが従来の人事マネジメントの仕組みが強固すぎると、簡単に手を入れることができない。そうなると事業戦略と人事の仕組みとの間に不整合が起きます。大きな目線では、そこがHRマネジメントの課題だと僕は考えています」(佐野氏)

確かに企業も今、変化に合わせて柔軟な人材活用を迫られている。転職/中途採用は珍しくもなくなり、採用手段でリファラルが取り入れられたり、副業人材の活用を検討したりする企業も出始めてはいるが、企業規模が大きければ大きいほど、採用からのフローも評価・報酬制度も、なかなか大きく変えられないのが現実だろう。

 

「例えば外部環境の変化が緩やかで、事業戦略も大きく変えなくてもよい会社であれば、従来の人事マネジメントの仕組みは維持できるという理屈になります。それでも社会は変化するので、多少のアップデートは必要ですが、大きくは変わらなくていいのです」(佐野氏)

経済成長期には、企業はオペレーションやマーケティングに力を入れれば良かったと佐野氏。特に製造業ではオペレーションを洗練させることで1から100,1から1000への発展が見込めるため、新卒を採用して自分たちのやり方を発展させるというモチベーションが働き、終身雇用がマッチしたと述べる。

「要するに(どのような状況でも)勝ちパターンを発展させるように人事マネジメントの仕組みもマッチさせていけばよいのですが、今は勝ちパターンの寿命もどんどん短くなってきているので、どう仕組みを直せばよいのかも検討しなければなりません」(佐野氏)